第三幕、御三家の矜持
 月影くんは未だ考え込むような表情のままで歩き出す。隣を歩いていると、徒競走を終えて暇を持て余している女子からの視線が突き刺さった。


「出たよ、桜坂亜季」

「姫気取りなんでしょ。キーモ」

「月影くん女嫌いなのにねー」


 その言葉を聞いていて、あ、と気が付く。そういえば、月影くんはどうして女嫌いを自称するのだろう。それなのにどうして私とは普通に話してくれるんだろう。


「ねぇつっきー」

「なんだ。悪口を言われて今更凹んだのか」

「今更とか言わないでください、あと凹んでないです。ツッキーってなんで私とは普通に喋ってくれるの?」

「なんだその自意識過剰な発言は。俺は誰とでも普通に喋る」

「いやそうじゃなくてですね」


 確かに今のは私の訊き方が悪かった、訂正しなければ。かといって何で女嫌いなの?と今更再び訊ねるのも気が引ける。


「ほら、ツッキーって女嫌いって言うじゃないですか。だったらなんで私とは話してくれるのかなーって。あ、お前は女子じゃないとかそういうのなしで」


 返ってきそうな答えを予め封じれば望む答えが返ってくると思っていた。しかし、月影くんは何も動じることなく、いつもの調子で振り向くだけだ。


「それなら既に話した通りだ。ただ単に個別的に君を信用しただけだ」


 なんなら、その理由だけでは不満か、とその淡泊な目が言わんばかりだった。ということは、女嫌いなのは女性に対する不信感のせい……? 以前御三家の推しが云々という話を舞浜さん達から聞いているときに月影くんの女嫌いも話題に上ったけれど、その話を聞く感じ、月影くんの女嫌いは透冶くんの事件とは関係がなさそうだった。あくまで女嫌いは元々で、透冶くんの事件を皮切りに生徒会役員で遊んでいただけだと……。でも生徒会役員との関係については、月影くんは透冶くんの事件とは無関係だと言っていた……。


「不満そうだな」


 悶々と考えこんでいれば、私の思考なんてお見通しのコメントが向けられる。その通りなのだけれど、先程の訊き方が最大限に婉曲的──どころか最早直接的に等しかったので──これ以上何をどう言えばいいのか分からない。お陰で黙っていれば、月影くんは馬鹿馬鹿しそうに呆れた目を向ける。


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