第三幕、御三家の矜持
「そんな好奇心より、今は君自身のことを心配したほうがいいんじゃないのか。確率が低いとはいえ、鳥澤の件が罠でない可能性は未だ拭えない。それに加えて君の妹が遼の初恋相手だときた」

「……後半は関係なくないですか」


 まるで私が桐椰くんに好意を寄せているかのような言い方をする。口を尖らせれば、月影くんは少しだけ──本当に、見間違いかと思うほど少しだけ──眉尻を下げた。


「……君がそう言うなら、俺には関係のない話だがな」


 そうして、意味深で意地悪な言葉だけを残して、また歩き出す。いつだって相手に考えさせる余地を残す月影くんの言葉が今だけは腹立たしくて、その背中にべーっと舌を出しておいた。



 月影くんと別れ、トラックを囲むように立てられたテントのうち待機テント下に整列すると、「さっきは災難だったねー」と先に並んでいたふーちゃんが振り向いた。そう言えば私と出場競技は全く同じだって言ってたっけ。それにしたって、こんな人目しかない場所でも話しかけてくれるとは、花咲高校にて唯一害悪のない女子はふーちゃんだけな気がしてきた。


「さっきって蝶乃さんの?」

「そーそー。あたし、丁度あの場離れてたしー、気付いたときも、歌凛ちゃんはあたしのこと嫌いだから、変に引っかき回さないように口出さなかった」


 ゴメンネ、と軽く謝られるけれど、なんで助けてくれなかったのなんて思いもしなかったので、首を横に振る。それよりもさらりと告げられた情報のほうが気になった。


「ふーちゃんって……、蝶乃さんと仲悪いの……?」

「悪いっていうか、歌凛ちゃんが一方的にあたしのこと嫌いなんだけどねー。家族仲が良い家庭で育った人のこと大体嫌いだから、歌凛ちゃんは」


 生徒会役員同士でそんなことがあるのかとおずおず訊ねてみれば、つい先程までの推測が事実だったことまでもが明らかになった。ついでにふーちゃんは家庭環境が良好なんだとも分かった。


「それは……やっぱり蝶乃さん自身の家族仲があんまり、とか?」

「あー、知らないの? 歌凛ちゃんのお父さんって俳優なんだよー。東條(とうじょう)(やすし)って知らない?」

「あ、知ってる」


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