第三幕、御三家の矜持
 合う合わないある、というのは「だから仕方がない」「誰かが悪いわけじゃない」なんてニュアンスを含んでいるのに、“ひん曲がり方”なんて言い方のせいで若干の棘を感じてしまった。初めて会ったときに話したときの印象の通り、ふーちゃんも飯田さんと同じで悪意のない人なんだろう。


「あれも仕方ないっていうのかなー。不倫騒動で家ばたばたして基本放置食らってたとか、そういうの聞くとさ、あたしは母親専業だし弟妹たくさんいて、まぁいわゆる温かい家庭なんだよねー。歌凛ちゃん曰くの所詮温室育ちが偉そうに口を出せることじゃないかなーみたいな」


 その考え方は、私に言わせればびっくりするくらい寛大だ。だって、家庭環境の云々なんて程度の違いはあっても多少なりと誰にでもある事情だ。例えば松隆くんがいい例なわけだし。月影くんだって、ついさっき、他人を見下す理由にはならないと言った通りだ。そんな二人の態度はとっても理性的なもので、普通だとは思わないけれど、そうあるべきなんじゃないかなとは思ってしまう。そんな私とは裏腹に、ふーちゃんは蝶乃さんの言葉を受け止めてあげるというわけだ。蝶乃さん曰くではあるけれど、ふーちゃん自身が恵まれているには変わりないから。


「あ、でもあたしがこう言ってるの秘密ねー」

「え、なんで……何も悪いことじゃないし、寧ろ仲良くなれるんじゃ……」

「歌凛ちゃん、同情されるのとか嫌いだからさー。温室育ちが上から目線で言ってるとか思われたらまーた嫌われちゃうよ」


 あたしはまだ読みたい漫画がたくさんあるんだから、とふーちゃんは肩を竦めた。お陰で菩薩みたいに優しいのかただ打算じみた心があるのかよく分からなくなってしまった。ただ、まぁ、確かに蝶乃さんはそんなことを言われるのは好きじゃないのかもしれない。仲良くないし、蝶乃さんのことなんて全然知らないから分からないけれど。少なくとも私が口を出すことではないので頷いておいた。


「ていうか、亜季は月影くんとも仲良しなんだね。びっくり」

「びっくりだよね。私もびっくりしてる」

「無愛想だもんねー、月影くん」


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