第三幕、御三家の矜持
 そして整列しながら、何の配慮もすることなく私を追い払おうとする月影くん。ただいま生じている問題は私が口に出したことには留まらない。月影くんが並ぼうとする場所の隣にいる一位ゴール者が鳥澤くんだったからだ。

 私が妙な立ち止まり方をしていることに気が付いた月影くんは、私の視線の先に鳥澤くんがいることに漸く気が付いた。鳥澤くんはマズイものでも見てしまったように気まずそうに整列している。そんな彼に何か言うべきなのか、何も言うべきでないのか分からない。告白されたとはいえ、付き合ってくださいというのは断ったわけだし、「さっき月影くんが言った通り使い勝手のいい下僕として召喚されただけだよ!」なんて事実でお題札に関する言い訳するのは妙な気がした。


「鳥澤」


 が、そこでまさかの月影くんが隣に並びながら声をかけてくれた。なお女子軍団に帰るのが怖い私は、他の男子のお題札に呼ばれて一緒に整列する女子に倣って月影くんの隣にいる。鳥澤くんは振り向きざま一瞬だけ私に視線を遣ったけれど、「なに?」と月影くんに苦笑いを向ける。


「他の女子は勘違いをする可能性があったゆえに桜坂を引っ張ってきただけだ。他意はない」


 ……そして私が口にするべきか悩んだことを迷わず口にした。月影くんならちゃんと色々な配慮を脳内で巡らせた後だと信じよう……。だが鳥澤くんの表情は晴れなかった。


「あー……そっか……ていうか、月影って女嫌いなのに、桜坂は平気なんだな……」


 そして晴れないどころの話ではなく暗雲でも立ち込めそうな勢いだった。もしこれが月影くんではなくて松隆くんだったら鳥澤くんは何も言えずに黙っただろうし、桐椰くんならBCCって本当に演技だったのかと疑ったかもしれないし、御三家の中で誰であっても鳥澤くんには申し訳ないことになっただろう。でも、女嫌いを自称する月影くんが私という女子を連れてきた、というのが一番最悪なパターンな気がした。ごめんなさい鳥澤くん、と私は心で謝るしかない。でも月影くんはあまり構わずに「ただの慣れだ」と返すだけだ。月影くんにとっての女嫌いは女に慣れてる慣れてないの問題ではなさそうなので絶対に適当に返事をしたに違いない。鳥澤くんも「そっか……」と短く返すだけだった。端的に言って非常に気まずかった。

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