第三幕、御三家の矜持
 解放されたのは十数分後で、絶対に月影くんに何かお礼をしてもらうぞ、と恨みながら、入場してくる女子に合流した。女子の目は冷ややかで、ふーちゃんの「月影くんは亜季となら話すんだねー」というこれまた悪意のない言葉のせいで更に視線は突き刺さる。視線だけで肌が痛くなる気さえした。最悪だ。早くスタートしてこの場を去りたい。四位以下はチームに点数が入らないとの理由でレース終了即退場が認められているから、四位以下になって早くこの場から去りたい。強い日差しの元凶を睨みつけるように見上げた。

 数分後、女子障害物競争がスタートした。私は五レース目なのでわりと出番が早い。それでも女子の視線から逃れたいという気持ちのせいで出番までの待機時間を妙に長く感じた。女子の障害物競走も男子と内容は変わらないようで、お題札を引いた女子が観覧席や学生の待機テントへ走る様子が見られる。


「どーする? 異性連れて来るヤツ引いたら」

「そりゃ御三家は呼びたいけどさぁ……どうせ断わられるだろうから、クラスのネタになりそうな男子に声かけたほうがいいじゃん?」

「でも三位以内狙わないなら御三家に話しかけにいったほうがいいよねー」

「分かるー、いい口実になるし」


 そうか、月影くんが私を連れて行ったように、女子側としても御三家の誰かを連れて行きたいというのはあるんだな……。お題札には必ずしも“気になる異性”が含まれているわけではないらしく、二レース終了して男子のほうへ駆け出したのは一人だけだった。どうか私のときに当たりませんように。

 そして更に数分後、知らない人ばかりの組み合わせで五レース目がスタートする。最初は平均台、次に網潜り、跳び箱、パン食い、とこれでもかと障害を詰め込んだレースだ。四位以下になりたいな、と細やかな思いを抱いていたというのに、幸か不幸か私と同じ組の人にあまり素早い人がいなかったらしく、宙づりのあんパンに向けてジャンプするまでぶっちぎりの一位になってしまった。これがただの体育祭なら嬉しかったのに。掌サイズのあんパンに無事噛みついて、もぐもぐと食べながら、テニスラケットでテニスボールをその場で十回ドリブル。最終関門は件のお題札だ。お題札は自分のレーン以外にあるものを無作為に選んでいいのだけれど、どうせ裏が透けて見えるわけでもないし、と素直に自分のレーンにあるものを拾い上げた。
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