第三幕、御三家の矜持

 そして自分の運の悪さに半ば呆然とする──“気になる異性”。最悪だ。

 何が気になる異性だ。いない人の気持ちも考えろ。っていうか例えば私は御三家がいるからいいものの、生徒会を敵に回して一般生徒からも嫌煙される人は一緒に来てくれる男子なんて誰もいなくて永遠にゴールできないことになってしまうけれど、そういう事態は想定してないのか。高校生活に無理矢理ドキドキワクワクの展開を持ち込もうとして無関心な人を巻き込むのはやめてほしい。そんな文句が思わず口から溢れんばかりに脳内に浮かんでしまった。きっと月影くんもこんな気持ちだったんだろう。


「ツッキー!」


 そして、私は迷わず月影くんのもとへ走った。目的地で見つけた月影くんは嫌そうな顔で「断る」と即答した。ふざけるなよツッキー! でも私が来た瞬間に「げ、御三家の姫だ」と避けてくれた男子のお陰で素早く月影くんを物理的には捕まえることができた。


「さっき私のこと使ったでしょ! 次はツッキーが使われる番だよ! さあ!」

「君は下僕で俺達は主人だ。主人が下僕の言葉に従うと思うか?」

「それ譬えですよね!? 本当に下僕なわけじゃないですよね! 主従関係解消されましたもんね! 仲良しこよしのお友達ですよね!」

「寝言は寝て言えと何度言えば分かる」

「いいから来てよ! 言っとくけどいま来てくれなかったら私に貸し一つだからね!」


 ごちゃごちゃと文句を言って日陰から出ようとしない月影くんの腕を両手で掴んで引っ張り言い争うこと十数秒、漸く腰を上げた月影くんを引っ張ってトラックに戻った。他のお題もそこそこ厄介なのか、そんなことをしていても当初のアドバンテージはなくならず、無事一位ゴール。ゴールに待ち受ける体育祭実行委員は月影くんがゴールしたときと同じ人で「さすが御三家とその姫!」とコメントし「主従関係だ」と再び公式下僕宣言がなされてしまった。最低だぞツッキー。

 そして月影くんは「では俺は戻る」とすぐさまいなくなった。ありがとねー、と手を振るもその背中は無視だし、なんなら他の女の子から「仲良しアピールうっざ」と睨まられるだけになってしまった。ここまでくると私に“気になる異性”を引かせたのは体育祭実行委員を務める女子の嫌がらせなのではとさえ思えてきたけれど、さすがにそれはないだろう。

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