第三幕、御三家の矜持
 たかが障害物競走がこんなに厄介なものとなるとは思ってなかった、と一位の整列ポジションに並びながら、気怠い気持ちで次の走者を眺める。私が走り出す前に誰かが話していた通り、“気になる異性”に御三家を選ぶかどうか悩んだ末に他の男子をとりました、みたいな子が何人かいた。仲のいい男子のいない子にとっては下手すれば告白にも等しくなってしまうのか、「おおおぉぉ!」と歓声みたいなものも上がっている。誰がそんなことをしたんだろう、と野次馬根性よろしく背伸びをして見てみる。ゴール地点に来て漸く見えた、男子と手を繋ぐ女子の顔は八橋さんだった。ほほう、八橋さんって大人しいイメージしかなかったけど、意外と大胆なところもあるんですね……。ゴール地点に待機している体育祭実行委員が興奮気味でマイク片手に駆け寄っている。


「第二位は“気になる異性”! 相手はなんと、我らが生徒会長、鹿島くんです!」


 そして、その名前でギョッと相手の顔面を注視してしまった。申し訳なさそうに俯く八橋さんと手を繋ぐのは確かに鹿島くんだった。マイクを向けられて「生徒会長は生徒の代表ですし、当然協力しますよ」と朗らかに当たり障りなく答えていた。相変わらず人当たりは良さそうなんですね、なんて感想は今はどうでもいい。八橋さんって鹿島くんが好きなの? 鹿島くんって (建前なのかもしれないけれど)蝶乃さんという彼女いるよね? ってことは蝶乃さんに喧嘩を売ることにもなるよね? 八橋さんってそんなキャラだっけ? こちらへやってくる二人を唖然として見つめていると、視線に気づいた鹿島くんが通り過ぎざま私を見た。


「君の気になる異性は松隆でも桐椰でもなく、月影だということでいいのかな?」

「競技でできた借りは競技で返してもらおうと思っただけです。他意はないですよ、生徒会長」


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