第三幕、御三家の矜持
 そんな歓声の渦に取り巻かれる中、更に別の歓声が沸く。もう驚かない、今度は残りのどっちだ、と思えば、続いて女子の手を引くのは桐椰くんだ。金髪のお陰で非常に分かりやすい。それでもやっぱり松隆くんのほうが人気なのだろうか、きゃあきゃあいう騒ぎ声はゴール地点に集中している──かと思えば、動揺した女の子が転びそうになったのを桐椰くんが抱き留めた瞬間、再びぎゃーだかきゃーだか分からない悲鳴が上がった。

 御三家が人気なのは知ってたけどここまでくると引くわ、なんて顔を引きつらせていると、背後でくすくす笑う気配がした。松隆くんのものだと分かっていたので振り向くと、想像した通りの顔がそこにはある。


「リーダー……どういう風の吹き回しですか?」

「別に、言った通りだよ? お願いされたから来ただけ」


 だからそれ絶対嘘じゃん、と冷ややかな目を向けるけれど、松隆くんは含み笑いをしながら「じゃ、俺戻るね」と軽く手を挙げて行ってしまった。松隆くんとゴールした女の子は「なんでイケメンっていい匂いするんだろう」「お願いしますって言ったら俺でよければとか言って手を取ってくれた」「本当王子様だった」と震える声で友達に報告している。夢か現か、なんて感想が透けて見えた。さすがリーダー、女の子を誑かせたら右に出るものはいない。

 次いでゴールした桐椰くんは「第二位、御三家の桐椰くん!」とのコメントに「呼ばれたんで来ただけです」と素っ気なく返事をし、相手の女の子が整列するのを待って待機テントのほうへ戻ってしまう。桐椰くんと一緒にゴールした女の子は「いーなー杏子(あんず)!」「アンタ桐椰くん推しだったもんね! やったじゃん!」と口々に友達らしき人達から喜ばれ「もう死んでいい……」と顔を手で覆っていた。桐椰くんも罪深い男だ。

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