第三幕、御三家の矜持
 グラウンドを離れるときも女子は御三家の話題で持ち切りだった。そしてどうやら松隆くんに断られた人がいたらしいと知る。そうなると、リーダーを筆頭とした御三家の今回の行動はつくづく謎だ。


「えー、やっぱ相手選んでるんだ?」

「いや、それがさぁ……実乃梨って、プールで桜坂さんを溺れさせようとしたことあったじゃん? あの話持ち出されたんだって」

「断られた瞬間になんかもう障害物争に戻れなくなったっていうか……医務テント直行したみたい」

「あたし、松隆くんのとこ行ったの実乃梨のすぐあとだったから聞いてたんだけどさ……『御三家の仲間に手を出して言うことがそれ? 脳味噌腐ってんの?』って……」

「うわ……松隆くんにそれ言われたら立ち直れないわ……」

「しかも松隆くん笑顔だったからさぁ……」


 かと思えば、どうやら第二次舞浜さん事件に関わった一人の話だったらしい……。あの日の御三家、わざわざ授業をサボって病院にまで来てくれたしなぁ……。あの時は“ゲッ”なんて感想しか抱かなかったけれど、今になって思えば、第二次舞浜さん事件は御三家にとって結構ショッキングな事件だったのかもしれない。プールで足を引っ張るなんて、悪戯にしては度が過ぎているから。彼等の脳裏には透冶くんが過ったのかもしれない。彼等の苦い記憶を刺激してしまったのではないかと今更気が付いて、配慮の足りないあの日の自分の軽口を今更反省した。


「まぁでも実乃梨はね……仕方ないんじゃない、机蹴られて俺達の女に手を出すなまで言われたんだよ」

「あー、それね。あの松隆くんがキレるんだからビビるわぁ」

「仕方ないよねー、実乃梨がやるって言いだしたんでしょ?」

「それを嗅ぎつける御三家も流石って感じだけど、自分の机蹴られておいて一緒に走ってくださいって、そりゃーいくらなんでも実乃梨が図々しすぎるでしょ」


< 60 / 395 >

この作品をシェア

pagetop