第三幕、御三家の矜持
 ……そして、実乃梨って名前、なんだか聞き覚えがあるなぁと思っていたら、舞浜さんのものだった。クラスメイトの名前なら、仲の良い誰かがその名前を呼んでいてもおかしくないし、それを私が無意識のうちに耳に入れていてもおかしくない。ただ、舞浜さんの名前なんて今でもどうでもいい。女子の会話を聞いていて分かるのは、第三次舞浜さん事件と今回の障害物競走の件を合わせて考えれば、いい加減私に妙なちょっかいをかける人はいなくなるということだ。御三家の有難味が分かるような分からないような……。取り敢えず障害物競走の件は御三家事件と名付けたくなった。

 その後の学生テントは、御三家を呼べた女子の興奮と、呼べなかったもしくは徒競走に出た女子との叫喚でカオスになっていた。今日は一体何のイベントだったんだ。そのテンションについていけない数少ない女子である私は、一度は大人しく待機しようと選んだテントをこそこそと去る。今しがた始まったのは男子全体競技で、障害物競走に出ていなかった女子が、直前に競技がないというアドバンテージを生かしてテント最前列に全力待機している。お陰でテントから弾きだされる羽目になった。加えて、午前中の体育祭プログラムの中に私の出番はない。お陰でもう教室に戻っていいですかくらいの気持ちだ。ただ一応、クラス対抗リレーは残ってるし、校舎はお昼の時間まで施錠されているし、仕方なく部室棟の前にある日陰へと向かってそこに陣取った。

 そこから、様子なんてとても見えもしないトラックの方向を眺めながら、頭の中に御三家を浮かべてみる。あの三人と綱引きって似合わないな……。せいぜい桐椰くんが限界だろう。そもそも、体育祭と松隆くん、体育祭と月影くんという組み合わせ自体に無理がある。特に松隆くん、団体競技が超絶似合わない。一生懸命になって汗をかく様子が見合うのは個人競技が限界だ。だからクラスマッチのテニスはセーフだった。月影くんは眼鏡を外したらちょっとチャラくなるし、バスケを見たので、松隆くんほどアウトではない。でも、それにしたって綱引きは似合わないだろう……! 松隆くんは綱を握るだけ握って力なんて入れなさそうだ。月影くんはどこでも真面目だからちゃんと引っ張りはするだろうけど……頭の中は(もや)がかかったみたいにその様子が想像できない。

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