第三幕、御三家の矜持
 そんな御三家を皆さまは見たいというのだろうか、(はなは)だ疑問だったけれど、女子の歓声が絶えることはないから、至極ご満悦といったところだろう。御三家ならなんでもいいんだろうな……。

 そうして暫く経った頃、綱引きが終わった。続くのは三年全体競技なので、三年男子はそのままグラウンドの中心に残るらしい。ほんの二分後くらいに始まった競技は、さっきまでの歓声はないけれど、高校生活最後の体育祭だからだろう、当事者が盛り上がっている様子はよく分かった。


「こんなところで何してるの、桜坂」


 体育座りしてそれを眺めていると、さっきまで女子の歓声という台風のど真ん中にいた松隆くんがやってきた。何度も女子障害物競争に駆り出されていた上に男子競技に参加しておきながら、微塵も疲れている気配がない。夏休みの旅行では神社の階段に嫌そうな顔をしていたけれど、あれはあくまで身内の前だから見せた顔だったというわけだ。ついでに、予想通りというかなんというか、男子全体競技は手を抜いてたんだろうな。


「なにも。私、もう午前中何もないからさ」

「あぁ、クラス対抗とかも出ないんだっけ」


 頷けば、「いいな、俺もサボりたい」と松隆くんは億劫そうな表情で部室の壁に凭れた。そのくらいは学校でも見せる表情というわけだ。


「ねぇ……結局障害物競走のあれ、何なの?」

「さぁ、なんでしょう」

「月影くんまで出てたってことは絶対に松隆くんの命令があったんだと思ったんだけどなー」


 そうでなきゃあの偏屈な月影くんが障害物競走なんてものに付き合ってくれるわけがない。数カ月一緒に過ごしてそれなりに得た理解はきっと正解で、松隆くんはくすくす笑いながら「確かに」と肯定した。でも結局答えを教えてくれる気配はないので諦めよう。


「あぁ、ところで桜坂」

「はいなんでしょう」

「桜坂の妹って遼の初恋の人だったんだ?」


 その言葉を口にするときの松隆くんには、躊躇いも惑いもなかった。お陰で一瞬何のことだか分からずに目を丸くして間抜けな顔をして、ややあって言葉の意味を理解して我に返り、一瞬で「え」と動揺したしそれは声にも出た。松隆くんの笑顔は胡散臭く輝いている。


「え、いや、あの、なんで知って……」

「この俺に知らないことがあるとでも?」

「ないですよねぇそうですよねぇ!」


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