第三幕、御三家の矜持
「気を遣ってるわけじゃないんだけど……あ、気を遣ってないわけではないんだけど! その、そういうのとは関係なく……」


 どうにも、みんなと話が噛み合わない。体育座りをしたまま、うーん、と首を捻った。


「桐椰くんには、優実と付き合ってもらわないと困るんだよ」


 そうしないと、私の積み上げてきた信頼が、壊れてしまうから。

 松隆くんは不審そうに眉を顰めているだけで、なぜ“桐椰くんと優実が付き合わなければならないのか”を訊ねようとはしなかった。





 松隆くんがクラス対抗リレーに出るというのを見送り、それなら私も観戦くらいはしようかとグラウンドの中心に近づく。でも甘かった、御三家のうち二人が出るとなれば場所取り合戦待ったなしで、辛うじてテントの下には入れても、競技が見える位置は女子で埋め尽くされていた。私は他の女子と違って御三家を見れなくてもいいし、大人しく日陰に戻ろう……と爪先をもといた場所へ向けようとすると、隣から腕を引っ張られた。


「え」

「何してるのー、亜季」


 私を引き留めたのはふーちゃんだった。ふーちゃんはテントの下とはいえグラウンドの中心側ではなく端側に座っている。他の女子という壁に阻まれてその場所では御三家なんてとても観戦できないのでは、と思ったけれど、例によって御三家に興味がないからその点は問題がないというわけだ。


「何って……居心地のいい場所を探そうかなと……」

「えー、松隆くんと桐椰くん、出るんでしょー?」

「出るけど、この有様だとね……」


 見ようと思っても見れないよね、と壁を目で示しながら答えた。元々ファンクラブよろしく御三家に熱を上げていた人達が、障害物競走のせいで更にヒートアップしてしまっているのだろう、そしてこの壁はそんな様子の具現のような気がした。ふーちゃんも同じく視線を向けながら「みんな自分の競技終わったときからスタンバってたからねー。あー、もちろん三年生の生徒会役員優先だったけど」と教えてくれた。つくづく、生徒会役員という地位はこの学校で安寧を得るための必須条件のようだ。

 特別何かをする予定ではなかったことと、ふーちゃんに引き留められたこともあって、私はそのままふーちゃんの隣に座り込む。案の定、そんな場所でそんな姿勢になれば、グラウンドの中心なんて何も見えなかった。


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