第三幕、御三家の矜持
「熾烈っていうかー、ガチな人にとってはガチ? ぶっちゃけ将来顔を利かせたいってとこまで考えてる人なんてめちゃくちゃ少ないし。それこそあたしなんてなーんにも考えてないし、漫画読みたいだけだし。こんなこと言ったら、それこそ先輩には失礼かなー」


 あはは、とふーちゃんは渇いた笑い声を出す。その笑い声はどこか自嘲気味に聞こえた。


「その先輩、いまは鹿島くんの指名役員やってるから、ヒエラルキー上位ではあるんだけどねー。生徒会長の指名役員なら、まぁそんなに悪くはないし、下手したらあたしみたいな図書役員より上かもしれないし。ていうかその先輩が特殊だったんだよ、親が花高の卒業生だからさ、生徒会長くらいやれって厳しく言われてたみたいだし」


 実際、その先輩は一年生のときに生徒会長やってたんだよ、とふーちゃんは続けた。それだけでちゃんと偉いのにね、と。


「うちの家は厳しいは厳しいけど、そーゆーのは全然ないし。あ、違うなー、あたしが女の子だからかな? 女の子なんて花高卒業すればいいよくらいだし、図書役員みたいに微妙な役職に収まってるくらいが丁度いいよーみたいな」


 どうやらお金持ちにはお金持ち特有の苦悩があるようだと、今日だけで何度目か分からない感想を抱いた。それは皮肉でもなんでもない。その意味では、私はまだ恵まれているのかもしれないと思ったくらい。親から求められる人達というのも大変なものだ。


「ま、うちの生徒会をやるのは結構意味があるんだよって話。だからそーゆー人達にとっては鹿島くんの制度改革はかなーりありがたい恩情措置だったんじゃないかな。希望役員と無名役員は説明を聞けば意味ないなって分かっちゃうけど、指名役員は、人望ある指定役員に選ばれたってことになるからね」


 そこまで話されて一つ、思い出した話があった。すっかり忘れていたけれど、随分前──記憶を探って見つけた光景からすれば文化祭のときだ──桐椰くんから聞いたことがある。

『御三家と生徒会以外で争いがないなんて、誰も言ってねーだろ?』

 あのときに聞いたのは、生徒会役員ではない人同士でいがみ合いというか、それなりに争いがあるということを話ではあった。でも文化祭は“お金以外の力で一位になった”ことを示す場にもなるとも言っていた。あの話は、生徒会の内部でも対立はあるということだったのかもしれない。

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