第三幕、御三家の矜持
 ただ、そんなことより何より引っかかるのは、鹿島くんの評価だ。


「……あのさ。私、鹿島くんのこと全然知らないんだけど……、鹿島くんって、どんな人なの?」

「えー、普通の人じゃない? っていうかただのいい人?」


 ふーちゃんは虚空に視線を彷徨わせていた。何かエピソードでもあったかなぁ、と記憶を探っているようだ。


「喋り方も穏やかだしー、人の話よく聞いてくれるし、勿論品行方正だし? あー、あたしが漫画置きたいって提案したときに賛成してくれたしね」


 やっぱ漫画って聞くと莫迦にする人いるからさぁ、とふーちゃんは肩を竦めた。ふーちゃんの口から出てきたのはプラス評価ばかりで、鹿島くんのことを何も知らないとはいえ、個人的に納得がいかなかった。


「あ、そういうとこはちょっとだけ松隆くんと似てるかもねー。でもあたしは松隆くんのほうがいいかなー」


 あ、顔の好みじゃないんだよ、とふーちゃんは付け加えた。それは分かっている、二次元にしか興味がないのだと。


「だって松隆くんはこっちに興味ないんだなーって分かるじゃん? 自分の周り至上主義っていうか、自分が一緒にいたい人以外にめっちゃくちゃ壁作るみたいな? 明らかに桐椰くん達と一緒にいるときの態度ぜーんぜん違うもん」


 その通りだ。松隆くんはその意味では分かりやすい。松隆くんの笑顔は無関心の裏返し。


「御三家がみんな超癖強いのに仲良しなのはさー、だからだよねー。亜季はどうせ知ってるでしょ、御三家にもう一人幼馴染いて、その人が虐められて転校しちゃったって話」


 話を聞きながら、ほのぼのと御三家の三人を頭に浮かべていたのだけれど、その言葉のせいで心臓が凍り付きそうになった。透冶くんの件に関しては、外部に漏れないよう徹底した緘口令(かんこうれい)()かれていていて、生徒会役員ですら本当のことを知らないというのは真実なようだ。表情を変えないように、ぐっと唇を強く噛んだ。


「……うん。聞いたことある」


< 69 / 395 >

この作品をシェア

pagetop