第三幕、御三家の矜持
 手渡されたのでは、という目を向けた私に対して飯田さんは肩を竦めてみせる。登校日のことといい、言伝を頼まれることが多い人だ。ただ、その相楽くんという人さえ知らないし、きっと差出人の名前を聞いても分からないだろう。女子でさえクラスメイトとブラックリスト以外は覚えてないのに、一組の男子のことなんて知るわけがない。便箋を開けて中の手紙を開くと、整然と並んだ文字が目に入る。特別綺麗な字ではなかったけれど、一文字一文字が同じ大きさなので几帳面な印象を受けた。

 教室内は未だざわついている。ただ、耳を澄ませたところで、相楽くんの情報さえない。主に聞こえるのは「なんでこのタイミングで?」「ていうか桜坂って……」「ギャップに騙されてるだけじゃねーの」と私に対する悪口だ。悪口はもう数カ月に渡って十分に聞いたから別のの情報をちょうだいよ!

「つか、御三家いるのに勇気あるよな……」


 そして、不意に、一人の声が響いた。水を打ったように教室内は静まり返る。そして次々と「確かに」と呟きが聞こえた。私も硬直する。確かに、みんなは御三家の三人がどんな感情を私に手向けているかなんて知らないだろうけれど、憶測というか推測というか、そんなものは立てているだろう。なんなら、そんなことを考えなくても、笛吹さん事件のせいで私に手を出せないことは周知の事実になったはずだ。……別に告白は危害ではないけれど。

 飯田さんは「ちゃーんと渡したからねー」と手を振り、「遊びに行く用事なかったら見に行ったのになー」と鞄を持っていなくなってしまった。ラブレターを渡すときも随分とあっさりしていたし、きっと飯田さんには私の恋愛事情になどそう興味はないのだろう。去り際の台詞通り、用事がないなら暇潰しに見に行っても構わない程度だったというわけだ。

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