第三幕、御三家の矜持
 それでも、ふーちゃんは気付いてしまったのだろうか。一瞬口を噤んだ 気配がした。それでもなんでもなかったかのようにその口をもう一度開く気配がし「それでも仲良くできてたのは、やっぱお互い根本的に仲良しだからなんだろうねー」と続けた。それでも、その台詞は不自然だった。私の様子には気付いていないように見せかけて、それでも狼狽えて、私の態度を見て続く言葉を直前で変えたような、奇妙な様子がその台詞にまとわりついていた。でもそれを問い質す必要はないので気が付かないふりをする。


「その点、鹿島くんと萩原くんと歌凛ちゃんは仲良くないしなー」

「え、そうなの?」


 そして、私も精一杯平静を保った声を出す。ただ、実際その話は初耳だし、驚くものではあった。猪鹿蝶なんて揶揄されてるし、指定役員の中でも仲が良いグループなんじゃないかなと勝手に思っていた。実際、鹿島くんと萩原くんは幼馴染だと聞いている。


「仲が悪いわけじゃないよ、勿論。特別めっちゃ仲良しってわけじゃない、みたいな? ていうか、御三家が仲良すぎなんだよー。あの三人、いっつも一緒に喋ってるし。生徒会だと鹿島くんと萩原くんはよく喋ってるけど、歌凛ちゃんと萩原くんはあんまり喋らないしねー」


 そこで一つ、抱いていた疑問が浮上する。そうだ、蝶乃さんと鹿島くんといえば。


「あの……さ、変なこと訊いちゃうかもしれないんだけど……」

「ん?」

「蝶乃さんって……鹿島くんと付き合ってるよね?」


 BCCでは鹿島くんは蝶乃さんと付き合っていた。でも鹿島くんは蝶乃さんのことを別に異性として好きではないかのような口ぶりだった。それでもって、八橋さんは鹿島くんを障害物競走の“気になる異性”に選んだ。蝶乃さんという彼女がいながら鹿島くんが応じたのは、生徒会長だから──生徒の代表として役目を果たしただけなのだろうか。

 ただ、私の質問の意図が分からないとばかりにふーちゃんは不思議そうな顔になり「え、付き合ってるよ」とさも当然のように答える。疑う余地などないように。そんな返事を聞いても、安心というよりは更に疑問が湧くだけだ。


「えー……っと、そう、なの、か……」

「去年の文化祭のときには付き合ってたしねー。あぁ、そうそう、それでさっきの話に戻るんだよー。あたしは鹿島くんより松隆くんがいいなっていう」


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