第三幕、御三家の矜持
 どの話だろう、と怪訝な顔をすればふーちゃんは補足してくれた。


「鹿島くんはさ、松隆くんとか桐椰くんと同じで誰にでも優しいんだよ。誰にとってもいい人だし。でも桐椰くんみたいな博愛とは違う感じするし、松隆くんにとっての御三家みたいに特別仲良しみたいな相手もいないんだよ」

「え、だから萩原くんとか……幼馴染だよね?」

「あはは、幼馴染って、小さい頃から一緒なだけで仲良しとはまた別だよー」


 確かに、その通りだ。身近にいる幼馴染が御三家なせいで勘違いしてしまいそうになるけれど、どんな幼馴染もあんなに仲が良いわけじゃない。“御三家が仲良過ぎるんだよ”とふーちゃんが評した通りだ。


「萩原くんはねー、鹿島くんと仲良しっていうか、鹿島くんの腹心って感じ。多分御三家の仲良しとはちょっと違うんじゃない? 実際、萩原くんのお父さんが鹿島くんのお父さんの部下だし」

「……そうなんですね」


 それをいうなら、月影くんのお父さんは松隆くんのお父さんの主治医なわけだけれど……。でも確か、その関係があったから、月影くんは幼い頃から松隆家に出入りしていたと聞いた。ただの主治医なら一緒に家に行くまではしないだろう。もしかしたら二人のお父さんたちは個人的にも仲良しなのかもしれない。松隆くんのお父さんが特に体調を崩した話も聞いたことないし、“何かあったらよろしく”くらいに頼んでいる、もしかしたら友達という関係が先にあるものなのかも。それなら確かに、鹿島くんと萩原くんの関係を松隆くんと月影くんとの関係と同列には語れない。


「だからあたしは、鹿島くんのことは嫌いじゃないし、まぁいい人だとは思うけど、それだけかなー。だって全然仲良くなれる気しないもん。どんだけ喋っても、この人に友達認定されてるのかなって首傾げ続けちゃう感じ」


 言わんとしていることはなんとなく分かった。結局、鹿島くんを相手にすると、自分に心を開いてくれているのかどうかがずっと分からないんだ。お陰で私の中では鹿島くんに対する不気味さが募った。

 でも──それでも、何より謎なのは、ふーちゃんが“優しい”と連呼する鹿島くんが、明確に私に向ける敵意。他人に対しては無関心を決め込んでるようにさえ聞こえる鹿島くんが、私に嫌悪なんて感情をわざわざ向けてくれている、その理由はどこにあるのだろう。


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