第三幕、御三家の矜持
 かと思えば、既に否定したことを引っ張りだされた。またその話か、とがっくりと額を押さえたくなった。そんなに仲良く見えるかな、私と桐椰くん。もしかしてやっぱり松隆くんが告白を忘れるように言ったのは、私の感情が桐椰くんに向いているようにしか見えなかったから? そうだとしたら誤解も(はなは)だしいけれど、例によってそれを否定したところでどうなんだ、という……。とりあえずふーちゃんに対しては否定しておこうか、と口を開いて。


「なーんか、桐椰くんって、相手のために引いちゃいそうなところある気がするんだよね。だから亜季が鳥澤くんと付き合ったら、桐椰くん、亜季のこと諦める気がする」


 ──言おうとしていた言葉を、呑み込んだ。


「あー、あたし部活動行進の準備しなきゃ。じゃねー、亜季」

「あ、うん、また午後にね……」


 ふーちゃんと喋っているうちにクラス対抗リレーは終わり、そのせいで女子の壁は解散し始めていた。「惜しかったなぁー」「まぁ桐椰くん速かったけど、他のメンツがねー、一組運動神経良すぎだもん」「アタシは松隆くん見れただけで満足」という会話のお陰で、二年生は一組が優勝したのだと分かった。立ち上がって辺りを見回していれば、金髪のお陰で桐椰くんが目につく。リレーが終わった後は松隆くんと一緒になっただろうに、なぜか隣に松隆くんはいない。


「……最低」


 そんな桐椰くんを見ながら、ぽんと頭に浮かんだ考えの汚さに、自分を罵った。
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