第三幕、御三家の矜持

(三)選べない君の手

「なぁ、今の、どういうこと?」

「……どういう、ってなんだよ。つか見んなよ……」

「見たくて見たわけじゃない。どういうことだって訊いてるんだけど」

「……別にどういうことでもねぇよ」

「本当に煮え切らないな、お前」

「……お前が口出すなよ」

「……お前がそうしたいならそれでいいけど。その代わり、俺はお前を助ける気なんてないからな」

「……アイツとキスしたから?」

「それ関係ある?」

「……否定しねーんだ?」

「関係があるのかないのか聞いてるんだよ」

「……お前、アイツにフラれてねーんだな」

「だから、それは関係あるの? もしかして俺が桜坂と付き合うから自分は運良く見つけた初恋の人と上手くやるかとかそういうこと?」

「旅行のときと随分態度が違うじゃねーの。あの時はやたら俺をそっち側に焚きつけようとしたくせにさ」

「そうだね。そのお陰でお前は桜坂から身を引くってわけだ」

「…………」

「何か言えよ」

「……何も言うことなんかねーよ」

「そう。じゃあ俺が口を出すことはないね」

「…………」

「でもそれとこれとは話は別だから。ちゃんとやれよ」

「……分かってるよ」



「あーっ、べたべたして気持ち悪ーい!」


 お昼休憩に教室へと戻るとそんな文句が聞こえた。グラウンドにいる間は気にならないけれど、いざ砂など舞わない綺麗な校舎内に戻るとその違和感を意識してしまう。女子の何人かが「あたし応援プログラムまで時間あるからシャワー浴びようかなー」「えー、私もそうしたーい」「アンタは一番最初だからムリムリ」と話しているのが聞こえた。特別綺麗好きなお嬢様というわけではない私もその案には賛成だ、また午後から汚れてしまうとはいえどうにも体がガサついて気持ち悪い。男子はお坊ちゃまとはいえあまり気にせずお昼を食べているだけだけれど。


「きーりやくん」


 気にしていない男子の一人の前にひょいと顔を出すと、おにぎりを食べていたその目がぎょっと私を見た。なぜぎょっとするのか。
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