第三幕、御三家の矜持
 そんな失礼なことを考えつつ、赤組の衣装である赤色の浴衣に着替えて更衣室を出る。更衣室を出たところでも「桐椰くんが赤組で本当よかった……袴絶対似合う……」「学ランはやっぱり正統派の松隆くんと月影くんに着てほしいもんねー」と盛り上がっている。やっぱり体育祭って御三家のためにあるイベントなんだな、と再確認させられた。

 実際、浴衣に着替えた後にグラウンドに出れば、黄組と青組──御三家も生徒会長も手に入れていない──は、既に敗北しているかのような空気感を漂わせていた。因みに黄組はチアがコンセプトなので、男子は黒を基調に黄色いラインの入ったチアユニフォーム、女子は黄色を基調に白いラインの入ったチアユニフォームを着る。体育祭でしか許されなさそうな袴だとか学ランに比べてそのコスチュームの人気は低く、男子からは外れ組と名高い。そして青組は男女問わず青色の法被(はっぴ)なので組人気最下位。伝統的に決まっている応援プログラムの衣装なので仕方がないのだろうけれど、どうにも色によって当たりはずれが大きいらしい。

 結局体育祭として王道なのは、白組の学ランとセーラーだ。セーラーはともかく学ランは暑そうだから、月影くんと松隆くんが揃って苛立っている様子が頭に浮かんでしまった。残念ながら、その二人が出演するだけで観客席が満員になってしまうので実物は見れない。今までの競技と同じく、少し離れた場所で浴衣姿のまま待機していると、「あ、また見てあげないんだー」と純和風美女が手を振ってきた。一体誰だ……、と注視していたけれど、近づくとふーちゃんだと分かった。そっか、喋らなければ普通に美少女なんだ、この子。


「松隆くんと月影くんの学ラン、二次元だったよ? 見なくていいの?」

「まぁいいです」


 二次元だったよ、という説明が何を意味しているのか、私にはよく分からない。


「まぁ、御三家を一人も獲得しなかった残り三組は可哀想だよねー。審査員の女の先生、絶対御三家で票入れるに決まってるじゃん」

「御三家って先生にも人気あるの?」

「んー、まぁ松隆くんはあるよ? 先生達にとっての御三家は私達にとっての御三家とは違うかもだけど、イケメンな高校生ってかわいーんじゃない?」


 そう言われるとそうか、と納得する。教師っていっても人なんだし、イケメンのほうが好きなのは当たり前だ。


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