第三幕、御三家の矜持
 ただ分かるのは──、透冶くんがいたらまた違ってたんだろうなってことくらいだ。少なくとも御三家なんて呼ばれはしなかっただろうし……、もしかしたら、今の三人の性格は少し違ってたのかな。


「なんだ桜坂、俺達のこと見てなかったの?」

「うっぎゃ!」


 ──なんて物思いに(ふけ)っていたせいで、背後の声に飛び上がるほど驚いた。隣にいるふーちゃんは「あー近くでみるとやっぱり二次元だぁー」と美少女の口から出るにはやや違和感のある感想を漏らす。間違えるはずのない声の主を振り向けば、この炎天下の中、詰襟の学ランを着込んでいながらも爽やかさを失わない松隆くんが立っていた。なんなら隣には相変わらず無表情の月影くんがいた。ただし月影くんは松隆くんと違って上着を脱いで片手に持って、シャツの袖も捲っているので、松隆くんほど服装の暑苦しさはない。なお数メートル離れたところからは女子の視線も感じた。


「あ、もうこんなところまで逃げ……退場してきたんですね」

「囲まれるの分かってたからね、同じ学ランに混ざって逃げたよ」

「な、なるほど……」

「本当に俺のこと見てなかったんだね」

「いやー、あの、そのー……ギャラリーが多くてとてもじゃないですけどお二人の勇姿は見れなかったといいますか……」


 なんなら午前中に話したことのせいで、松隆くんの顔を見るのは少し気まずかった。でも松隆くんが気にする様子はなく、「あぁ、俺達は所詮その程度だったってことね」と私で遊ぼうとする。でも二回目の台詞は“俺達”じゃなくて“俺”だったし……。本当に読めないなリーダー!

 その視線はちらとふーちゃんに移る。ふーちゃんは松隆くんの顔をじろじろと見ていて「コスプレさせるなら何がいいかな……今期のアニメは男キャラが不作だからな……」なんてよく分からないことを呟いていたけれど、松隆くんと目が合うとその口を閉じた。


「…………」

「生徒会役員の薄野じゃなかったっけ? こんなところで桜坂と話して、何してるの?」


 やっぱり生徒会役員だったら顔と名前は知ってるんですね……。つくづく自分の警戒心のなさを反省する。とはいえ──言い訳じみてはいるけれど──松隆くんは人一倍警戒心が強いタイプなんだろう。笑顔でこそあれ、その言い方には鋭さを感じた。

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