第三幕、御三家の矜持
 ただ、ふーちゃんはそれを気にする様子はない。ただにこーっと笑って首をほんの少し傾ける。その仕草は、向けられた相手ではない私にでさえ、ドキッとときめきを与えた。ふーちゃん、その口からは、漫画がないと図書室の意味がないだの二次元が至高だの一次元下がりたいだの残念な台詞ばかり溢れているというのに、その見た目はやはり美少女なんだな。下手したら松隆くんの隣に並んでもお似合いといわんばかりの美少女だ。しかも自分でそれを分かってる!

「えー、亜季と話してるだけだよー。あたし御三家に興味ないから、別に亜季に嫉妬とかしないもんー」


 そしてこのリーダーの前で“御三家に興味ない”と言い放つその度胸……。ただのふわふわしたお嬢様じゃないことはよくよく分かった。その態度が松隆くんの癪に障った気配はない。ただ、その目からは疑念が消えていない。


「……まぁ手出ししないならいいけど。薄野のお父さんって──」

「あ、そうだよー、松隆グループ証券会社本社の取締役でーす。その意味でも何もしないよー」


 ……なんだと。


「……別に俺はそんなことしないよ」

「そーかもしれないけど、私達の中だとちゃーんと効くから。敵を見定める指針にはなるんじゃない?」

「……ご尤も」


 いま繰り広げられている会話は、つまり、ふーちゃんのお父さんのボスが松隆くんのお父さんだから、ふーちゃんのお父さんの立場を懸念して、ふーちゃんが松隆くんの敵に回ることはできないということですか。そしてそれが、この高校の中では友達関係を作る一つの指針になると……。

 唖然として松隆くんとふーちゃんを交互に目だけで見ていると、ふーちゃんが「あ、勘違いしないでねー」と手を横に振ってみせる。


「多分親がどの会社で何の仕事してるかなんて、基本子供には関係ないよー。ただ、いまは御三家と生徒会が対立してるし、生徒会役員にはそういう人が時々いるから気に掛けとかないとね、って話」

「そうだね。子の可愛がり方を間違える莫迦な親と、その親を利用する莫迦な子は時々いるから」


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