第三幕、御三家の矜持
 ご尤もだ。日当たりは悪いし、建物自体には設計ミスがあるわけだし……、知る人ぞ知る、事故現場でもある。それでもって第六校舎に一番近い校門──北門は駅に近いどころか遠いし、行く必要ってものがないのだ、第六校舎は。だから──ある意味告白に最適とはいえ──お坊ちゃまお嬢様がわざわざ選ぶにしては、随分とムードもへったくれもない場所だ。あぁでも、お金持ちが多いだけで普通の人もいるか……。それはさておき、この手紙の差出人の真意が分からないには変わりない。突然の告白なんて十中八九罠でしょうとは思うのだけれど、桐椰くんの台詞には引っかかるところがある。


「……桐椰くん、ついてくるの?」

「だから言ってるだろ、罠だったらどうすんだって」


 さも当然のように言いながら桐椰くんは立ち上がる。そう、罠だったらヤバイだろ、ということは、裏を返せば、罠に備えるべく告白現場に立ち会うということだ。告白する側にしては堪ったものじゃない。ただ、 (おそらく)顔も知らない差出人のプライバシーは正直どうでもいい。緊張で喉に言葉が(つか)えた。


「でも、他の女の子の告白現場に行くなんて体裁悪くない?」

「は?」

「え?」


 絞り出すように、それでも平然と聞こえるように口にした台詞に、どうしてか桐椰くんは素っ頓狂な返事をした。お陰で私のほうこそ頓狂な返事をしてしまう。お互いきょとんとして──なんなら桐椰くんは怪訝を通り越して幾分不愉快そうに眉を顰めさえしていて──私は齟齬(そご)の原因を把握できずに口を開く。


「え、だって、悪いと思わない? 桐椰くんは思うと思ってたけど……」

「デリカシーってことだろ?」

「そう」

「だったら他の女の子のってなんだ?」

「え、他は他じゃん……」


 二人して頭上に沢山のクエスチョンマークが浮かんでいる。お互いに首を捻っていたけれど、はっと私が先に気が付く。


「もしかして姉妹なら他もなにもないってこと?」

「……は?」


 それなのに、やはり桐椰くんは怪訝な表情を変えない。それどころか一層不愉快そうな顔に変わる。


「……お前、何の話してんの?」

「え……? だって桐椰くん、優実と付き合ってるんじゃないの?」


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