第三幕、御三家の矜持
 んー、と今度はふーちゃんが首を傾げた。その目は記憶を探るように虚空に向けられる。


「普通に、話しかけられてるけど鬱陶しい、みたいな。一瞬妹かなーって思ったんだけど、それにしては本気で嫌そうだったから。ナンパだったと思うよー」

「……桐椰くん、弟しかいないもんね」

「あ、そうなんだ? じゃあやっぱり年下の扱い慣れてるだけだったのかな? まぁ、あたしもあんまり見てないから、気になるなら桐椰くんに聞いたらいいんじゃないかなー」


 なぜ気になるのか、ふーちゃんは訊かなかった。

 そんな桐椰くんと優実の謎の遣り取り (正確には桐椰くんの嫌そうな態度)を聞いてしまい、続く競技の最中もそのことで頭は一杯だった。続く競技というのがクラス対抗の学年競技だったので、桐椰くんが視界の隅にちらちら映っていたというのも原因の一つではある。平然とした顔で橋爪くんと戦略なんて立てていて、その背中に「なんで嫌な態度をとるんだ!」と念を送っても当然気づかれず。勝敗の結果すら頭に入ってこなかった。

 その次の競技、女子全員参加の棒奪い──合法的に嫌いな人を突き飛ばしたり踏みつけたりできる魔の競技だとふーちゃんが笑顔で教えてくれた──では、流石にその“合法的な暴力”を警戒していたけれど、多分御三家の睨みが利いていたんだろう、私の周りでは引っかき合いみたいな争いが繰り広げられていたのに、私自身は誰にも危害を加えられなかった。それどころかうっかり私の足を踏みつけてしまった女子は、競技直後に青ざめた顔で謝罪にきた。ただの事故だから気にしなくていいです、と言うのに「お願いだからこのことは松隆様には言わないで」と泣きつかれる始末。お陰で“松隆様”という謎の呼称にツッコミを入れる気すら起きなかった。因みにふーちゃんは私の背後でお嬢様らしからぬ爆笑をしていた。

 そして、体育祭の花形競技ベスト3には入る、騎馬戦。ふーちゃんが「二・五次元の裸見なきゃ」なんてとんでもない台詞と共に私を引きずったので、最前列を陣取って観戦する羽目になった。それでも睨む女子が殆どいなかったのは、ふーちゃんが生徒会ヒエラルキートップに君臨する図書役員だからだろう。


「あ、松隆くんはっけーん。王子様、意外と筋肉あるんだね」


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