第三幕、御三家の矜持
 ふーちゃんが指さすほうを見れば、気だるげにはちまきを締め直す松隆くんがいた。確かに、松隆くんにはいつも「細いなぁ」と感想を漏らしてしまうけれど、上裸の状態が全くひょろく見えない。今は遠くて見えないけれど、プライドの高い松隆くんのことだ、多分腹筋も割れてるんだろう。あんまり覚えてないけど、夏休みに海で見たときにはそうだった気もするし。

 そう、騎馬戦にて、騎馬役は脱がないけど騎士役は上裸だ。ラグビーみたいに服を掴まれ引きずり降ろされないようにするためだろうか、なんて真面目に考えていると「いやサービスでしょう、女子への」とふーちゃんが身もふたもない意見を述べていた。「まぁ二次元に勝る裸はないから大したサービスじゃないんだけど」とも。


「ふーちゃんって……三次元はB専なんだよね? 松隆くん達は見るの……?」

「んー、顔が綺麗な人は好きだよ、見る限りで。だから松隆くんみたいに二・五次元の顔と体はめちゃくちゃ見てたい、ていうか着せ替えたい」


 所謂目の保養というヤツだろうか。ちょっと違う気もするけど。


「でも別に恋愛対象じゃない、みたいな? あたしが好みって言う人、大体顔が駄目って言われるんだよねー。でも三次元は顔より雰囲気だしー、だからB専なんだろうな、っていう? あたしもよくわかんなーい」


 そう締めくくったふーちゃんは、男子が整列していく中で「おっ桐椰くんちかーい」と声を上げる。

 グラウンドの中心を戦場として、そこを囲むように各組が並び、私達の前には赤組男子が整列する。声をかければ届きそうなところに桐椰くんが立っていて、それを見つけた背後の女子からは黄色い悲鳴が上がった。ギョッと何人かの男子が振り向き「あぁ、桐椰のせいね……」と哀しそうな目をする。当の本人は聞こえないふりをして腕を十字にし、軽い準備運動をしていた。近いお陰で大変よく見える桐椰くんの腹筋は当然のごとくばっちり割れていて、騎馬役の男子達と何か話すときにくるりと後ろを向けば背筋(はいきん)もガッツリ。


「桐椰くんって中身あれなのに体は男の子なんだもんね」

「中身あれって?」

「ううん、なんでも」


 料理上手な世話焼きだと大抵の人は知らないので黙っておこう。ふーちゃんに言わせればギャップ萌えらしいけど。

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