第三幕、御三家の矜持
 そしてぽんと、同じ双眼鏡を私の手に置く。ほんの十数秒で何が起こったのか分からずにリアクションにさえ困っていると、「あ、さっきの人はうちのお手伝いさん」とのほほんと告げる。お手伝いさんなんて呼称の似合うような柔らかさなんて欠片も感じないおじさんでしたけど。というか、やっぱりこの子ってお嬢様なんだな。

≪続きまして、第二戦、白組対緑組≫

「やっぱり双眼鏡がないとよく見えないもんねー。王子様はビジュアルいいからしっかり見なきゃ」

「ふーちゃんは松隆くんが嫌いなの?」

「ドSっぽい三次元が嫌いなだけだよ」


 双眼鏡から僅かに目を離してウィンクしてみせるふーちゃん、やはりどこまでも残念な美少女だ。

 とりあえず、折角ふーちゃんが私のぶんまで届けさせてくれたというので私も双眼鏡を覗き込んで松隆くんと月影くんを探す。ピーッ、という音と共に再び騎馬が組まれ、端から見ていくと、騎士の松隆くんはすぐに見つかった。物理的に人の上に立つと余計に偉そうだ。


「月影くんは……」


 そもそも騎馬なのか騎士なのか、と視線を僅かに上下させながら探していると──いた。絶対インドアだろ、とぼやきたくなる色の白さ。桐椰くんと違って色白じゃなくて日焼けしてない色の白さ。そう、つまりは騎士だ。


「なんでツッキー上なの? 違うくない?」

「確かに月影くんは頭脳派だもんねー」


 そうコメントするふーちゃんはあまり興味がなさそうだった。双眼鏡のお陰で月影くんの腹筋が割れてることまで見えてしまい、「いやツッキーなんで割れてるの!? もしかして高校生男子はデフォなの!?」と思わず呟いてもふーちゃんは反応しない。松隆くんと桐椰くんの腹筋は「はぁ、あれが二次元ならな……」と切なそうな溜息をついていたというのに、月影くんには無反応。松隆くんに向かっては「あぁ、ビジュアルが二次元……二・五次元……」とこれまた切なそうな溜息をついていたのに、やはり月影くんには無反応。もしかして秀才キャラは好きじゃないとかそういうことかな。


「お、我らが生徒会長も上かぁー。鹿島くんもいい体してるよね」

「鹿島くんは……いいかな……」


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