君と恋とエトセトラ
 それは、嘆きだった。白銀(しろがね)というその苗字だけでなく、銀髪とクールな性格も相俟って冷酷な銀色の狼──銀狼(ぎんろう)と呼ばれるトップの面影など、今の彼には微塵もない。まぁ狼って犬科だもんな、なんてこんな姿を見てると思う。


「まぁ元気出せよ白銀。幸いにも高校生というものは期限付きだから。耐えてれば終わる任期付の座だ」

「だから耐えるの辛いって言ってるんですけど? え?」

「だから耐えろって言ってるんですけど。え?」

「……氷洞(ひょうどう)が怖い」


 しくしく、とクッションに顔を埋める白銀。無視して紅茶をまた一口啜れば、キッと白銀はクッションから僅かに覗かせた目で一生懸命私を睨みつける。


「お前、仲間になんて言われてるか知ってるか? 睨まれただけで末代まで冷え性の呪いをかけられる氷の女王だぞ! この汚名を返上するためにもまずは俺に優しくすることから始めるべきだ! さぁ!」

「知らないんだけど。大体冷え性なんて体質を人の所為にしてる暇があったらOLのお悩み相談よろしくネットに助けを乞えばいい」

「……そういうところが本当に良くないと思う」


 もふん、と白銀は再びクッションに顔を埋める。そのまま「ねー、ところで俺の紅茶冷めちゃったんだけど淹れなおしてくれないのー?」と子供のように強請るから別のカップを取り出してお湯を注いでやった。コポコポという音に反応した白銀は嬉しそうに飛び起きる。輝く笑顔の象徴のような口の端には八重歯がのぞいた。が、それはカップを見た瞬間に凍り付く。


「……え、氷洞さん、気のせいじゃなきゃこの紅茶透明なんですけど……」

「これは失敬、リーダー。こちら馬鹿には色の見えない紅茶でして」

「ひょおどおおおお! 何!? 俺の何が不満なの!?」

「しいて一ついうなら、顔?」

「しいてって他にも沢山あるの!? しかも顔だけには自信あるのに俺!」


 白銀の顔は、世間一般には整っているほうだと思う。指先でなぞってみたくなるような通った鼻筋とか、整えもしないのに筆で書いたように綺麗な眉とか、女性のように可愛くそれでいて冷たさも併せ持つような目とか。ついでに笑ったときに見える八重歯はご愛敬。それでもって、後輩をまとめてリーダーとして前に立つときの白銀の背中は、きっと一般論で言えば格好いい。


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