君と恋とエトセトラ
 というわけで、案の定、雪も入学式の進捗を把握していない。今後の入学式の流れを把握すべく式の様子に注意を配る。一階では、真新しいセーラー服と学ランという東高の制服を着ている──というよりは制服に着られている新入生達が、幾分緊張した面持ちで話を聞いている。もちろん中にはもうすっかり式に飽きてしまった顔も見える。淡々と進む式は確かにつまらないし、私だって去年の入学式のことなんて記憶の片隅にすらない。いや……、正確には、ほんの一部だけ記憶に残っている。

 ステージにいたおじさんが会釈をしてその場を去ると、司会の役を与えられた教頭がマイクの前に立つ。


「では、続きまして──」


 そして、その声を遮るようにヒュッと音がした。教頭がしまったと言わんばかりに言葉を切る。今年《《は》》このタイミングだったか、と。

 次いで、ダンッと重々しい音がステージに響いた。加えてその銀髪が飛び降りた瞬間、先週集めた桜の花びらが一緒に舞い落ちた。ざわっと新入生達がどよめき、教師陣が呻いた。


「──入学おめでとう」


 そして、新入生以上に主役の顔をした白銀は、ニッと不敵に口角を吊り上げてマイクの前に立った。もちろん白銀は青龍伝統の長ランを着ているし、崇津市にある高校に進学しておきながら青龍の存在を知らない人がいるはずもなく、白銀が現れた瞬間に白銀が誰かはみんな理解したらしい。あれが噂の青龍だと男子は尊敬の眼差しを向け、女子は羨望の眼差しを向ける。相変わらず周囲に受けやすい容姿をしているようで何よりだ。

 そんな視線をその一身に集めた白銀は、式に参加する新入生を視線だけで見渡した。コホン、と軽く咳ばらいをして、改めてマイクを手に取る。


「百一代目、青龍だ」


 そう名乗られただけで、新入生の間には緊張が走る。


「知っての通り東高は青龍が仕切ってる。俺達は何もされなきゃ何もしない。優等生諸君は俺達と棲み分けて平和にやろうぜ。不良気取ったヤツはこっち側だ、一緒に遊びたいヤツは歓迎してやる。ただ、この高校でナメた真似するってことは俺に喧嘩売ってるってことだ、それだけはよくその頭に刻んどけ。ルールは守って楽しい高校生活にしよう」


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