君と恋とエトセトラ
 毎年、青龍のリーダーは入学式で新入生歓迎の挨拶をする。去年の桐椰先輩もそうだった。ただ、桐椰先輩は堂々と教師に申し入れ、末席ながら来賓を気取り、恭しく登壇して挨拶をした。お陰で私達の中には「あれって生徒会長?」と勘違いする人もいた始末だ。因みに青龍の挨拶は、本来は乱入という形で行われるので、白銀みたいに体育館ステージの上に待機し、タイミングを見計らって飛び降りるなんてほうが普通だ。因みに桐椰先輩の前の代は道場破りよろしく体育館の入口からやって来たらしい。とにかく、桐椰先輩は本当に色々と規格外の青龍だった。因みに桐椰先輩の挨拶は簡単にまとめると「女の子はみんな可愛いから泣かせたヤツは俺が制裁を加える」だった。本当に女好きなだけの先輩だ。

 その点、白銀はまともな挨拶をしている。俺達は俺達で楽しくやる、だから俺達と関わりたくないヤツは下手に俺達に口を出すな手を出すな。お互いにお互いの分を弁えてよう。青龍に入りたい新入生は歓迎する。入らないで不良を気取る新入生がいてもいい。ただし、青龍のポリシーに反して普通の生徒に手を出したりしたら、青龍が黙ってない、と。本当、根は真面目なんだよな。

 ほんの数分間の挨拶をした白銀は、最後にその八重歯を見せて笑う。


「以上。百一代目青龍、白銀哲久」


 崇津市の高校には、ただ地元だからとかいう理由で進学してくる人も当然いるけれど、東西南北の勢力争いを愉しむために入学する生徒もいる。その勢力争いを愉しむために入学したらしい男子は、白銀を見て高校生活の方針を決めたらしい。勢力争いに参加することはできなくても憧憬のようなものを抱いた女子は、白銀に恋でもするのか……。分からないけれど、少なくとも教師陣が額を押さえている様子は視認できる。くすくす笑い声が聞こえると思ったら、新入生に混ざって一番後ろに桐椰先輩が座っていた。受験勉強のために引退しますという宣言は実は言い訳で、本当は自分が在学している間に後輩の勇姿を愉しみたかっただけなんじゃないかと最近思えてきた。


「京花、この後どうする?」

「ん? 多分白銀が挨拶の途中で詰まったこと思い出してソファでのた打ち回ってるだろうから本部行くよ」


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