君と恋とエトセトラ
 本部と呼んでいる教室の扉を開けると、股を開いて腕を組んで横柄にソファに座る白銀がいた。でもいつものごとく、私だと気が付くと脱力したように「なんだー、氷洞かー」と頬杖をつく。次いで背後から現れた雪を見ると「雪斗!」とぴょんと立ち上がった。


「よ、哲久」

「風邪治ったって聞いたけどもういいのか?」

「あぁ。入学式の挨拶お疲れ」

「……途中で台詞飛んだ」


 ばたん、と白銀はソファにうつ伏せに倒れる。感情を非常に激しく体で表現するヤツだ。「氷洞、紅茶飲みたーい、紅茶ー」とくぐもった声でねだってくる。いつものことなので食器棚を開いて紅茶を淹れる準備をする。雪は白銀の向かい側にあるソファに座り込んだ。


「雪、何の紅茶がいい」

「んー、なんでも」

「なんでもが困るっていつも言ってる」

「じゃあアッサム」

「えー、牛乳あったっけ……」

「ねぇちょっと待って」

「なに、牛乳あるの?」

「違う! だから俺は氷洞の紅茶に口出ししないって言ってるじゃん! そうじゃなくて!」


 雪と私の遣り取りに割り込んできた白銀を振り向けば、ソファにうつ伏せに寝転んだまま顔だけ上げていた。相変わらず表情豊かな顔が愕然としている。


「俺には紅茶のリクエストとか聞いたことなくない!?」

「いま口出ししないって言ってたじゃん」

「リクエストするのと口出しするのとは別じゃん!?」

「烏龍茶と紅茶の違いも分からないヤツが何をリクエストするの」

「それぐらい分かるよ!? 馬鹿にしないで!?」

「昨日出したの烏龍茶だったのに今日も氷洞の紅茶美味しいとか言ってたじゃん」

「うっそぉ!?」

「嘘」

「……氷洞なんてチャリがパンクして帰れなくなればいいんだ」


 しくしくとソファに伏せる白銀。電気ケトルの電源を入れて雪の隣に座れば、「哲久ー」と白銀を呼ぶ桐椰先輩の声が廊下から聞こえる。桐椰先輩が来ると分かっていれば白銀が姿勢を正すこともなく、入って来た桐椰先輩は「あ、また京花ちゃんがいじめたのか」と仕方なさそうに笑った。欠片の同情の窺えない「可哀想に」もついてきた。ぺこっと雪は軽く会釈する。

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