君と恋とエトセトラ
第五話 恒例行事の異例事
「なぁ京花」
扉を開けながら声をかけ、ひょいと顔を出した雪の顔にセーラー服をぶん投げた。雪の手はぱしっとそれを掴むものの、軽い布は煽られてぱふっと雪の顔に触れる。
「なんだよ」
「着替え中」
「いいだろ、もう散々見たんだから」
言いながらセーラー服を下ろして視界を開こうとするので、更にスカートを投げた。こちらもまたぱしっとキャッチされる。
「なぁ京花」
「なに、何か用」
「用があって来たんだけど、お前、上も下も俺に投げて、どうやって着替えんの?」
グレーのキャミソールを被った後にパンッと力強く衣装ケースを閉じた。ダンダンと床を踏み鳴らす勢いで雪に歩み寄り、その右手にあるセーラー服で雪の視界を隠し、既に雪の視界を隠していたスカートをその左手から奪い取る。
「で、何の用だったの、元々は」
「あぁ、先週朱雀が代替わりの挨拶来てただろ? 北高の玄武も就任したはずなのに挨拶ないから、何か知らないかって聞こうと思ったんだ」
セーラー服に顔面を覆われている雪の声はくぐもって聞こえる。雪の側を離れ、鏡の前でスカートをはく。
確かに、玄武は毎年四月に必ず代替わりするし、新学期が始まったら新・玄武の二年生が挨拶に来るのが恒例だ。お祭り騒ぎの好きな南高の白虎に言わせれば「スケジュールでも組んでんのかよお前ら」なんて揶揄したくなるほどの真面目さ。北高は崇津市内で一番偏差値が高くもあるし、桐椰先輩からも「なんで不良なんかやってんの?」なんて不思議そうに言われるくらい、玄武の真面目さは折り紙付きだ。
そんな生真面目な玄武が挨拶にも来ないとは珍しい。新学期が始まって早一週間、白銀に憧れた新入生はいつの間にか青龍の溜まり場に顔を覗かせるかたむろするかし始めている。
「何も知らない……けど、何かあるんだろうなぁ。今日の放課後行ってみようか、北高」
「そうだな。哲生連れて行くと殴り込みと間違えられそうだし、俺と京花でいい?」
「雪がいても……とは思うけど、白銀よりマシか。そうだね、そうしよ」
さてセーラー服を……と思ったところで、先程の雪の声がくぐもっていなかったことに気が付いた。
素早く振り向くと、扉に凭れ掛かって腕を組んだ雪は、セーラー服を片手にじろじろと私を見ていた。
眼鏡の奥の黒い目は、振り向いた私の頭から爪先までを静かに観察した。
「京花、もっと食えば?」
そしてその一言を発したとき、その視線は胸まで戻っていた。
パァンッ、と朝から景気のいい音が響いた。
扉を開けながら声をかけ、ひょいと顔を出した雪の顔にセーラー服をぶん投げた。雪の手はぱしっとそれを掴むものの、軽い布は煽られてぱふっと雪の顔に触れる。
「なんだよ」
「着替え中」
「いいだろ、もう散々見たんだから」
言いながらセーラー服を下ろして視界を開こうとするので、更にスカートを投げた。こちらもまたぱしっとキャッチされる。
「なぁ京花」
「なに、何か用」
「用があって来たんだけど、お前、上も下も俺に投げて、どうやって着替えんの?」
グレーのキャミソールを被った後にパンッと力強く衣装ケースを閉じた。ダンダンと床を踏み鳴らす勢いで雪に歩み寄り、その右手にあるセーラー服で雪の視界を隠し、既に雪の視界を隠していたスカートをその左手から奪い取る。
「で、何の用だったの、元々は」
「あぁ、先週朱雀が代替わりの挨拶来てただろ? 北高の玄武も就任したはずなのに挨拶ないから、何か知らないかって聞こうと思ったんだ」
セーラー服に顔面を覆われている雪の声はくぐもって聞こえる。雪の側を離れ、鏡の前でスカートをはく。
確かに、玄武は毎年四月に必ず代替わりするし、新学期が始まったら新・玄武の二年生が挨拶に来るのが恒例だ。お祭り騒ぎの好きな南高の白虎に言わせれば「スケジュールでも組んでんのかよお前ら」なんて揶揄したくなるほどの真面目さ。北高は崇津市内で一番偏差値が高くもあるし、桐椰先輩からも「なんで不良なんかやってんの?」なんて不思議そうに言われるくらい、玄武の真面目さは折り紙付きだ。
そんな生真面目な玄武が挨拶にも来ないとは珍しい。新学期が始まって早一週間、白銀に憧れた新入生はいつの間にか青龍の溜まり場に顔を覗かせるかたむろするかし始めている。
「何も知らない……けど、何かあるんだろうなぁ。今日の放課後行ってみようか、北高」
「そうだな。哲生連れて行くと殴り込みと間違えられそうだし、俺と京花でいい?」
「雪がいても……とは思うけど、白銀よりマシか。そうだね、そうしよ」
さてセーラー服を……と思ったところで、先程の雪の声がくぐもっていなかったことに気が付いた。
素早く振り向くと、扉に凭れ掛かって腕を組んだ雪は、セーラー服を片手にじろじろと私を見ていた。
眼鏡の奥の黒い目は、振り向いた私の頭から爪先までを静かに観察した。
「京花、もっと食えば?」
そしてその一言を発したとき、その視線は胸まで戻っていた。
パァンッ、と朝から景気のいい音が響いた。