君と恋とエトセトラ
北高の校門は、なんというか“荘厳”なんて表現でも似合いそうなくらい立派だ。ただ古いだけの東高とは違い、“伝統と格式を守ってきました”とでも聞こえてきそうな黒い門。ついでに部外者は撥ね退けそうな威圧感まで与えてくれる。
「いつ来ても堅苦しいな、北高。息まで苦しくなりそう」
飄々と言ってのける雪からはとてもじゃないけど息苦しさなんて感じない。それどころか躊躇なく敷地内に踏み込む。
「雪、玄武のアジト──クラストの位置、分かってるの?」
玄武のアジトにはそんな名前がついている。青龍のアジトも本部以外の呼び方つけたいなぁ、と白銀はぼやいていた。
「あぁ、一応。この格好だし、直で顔覗かせてみようかな」
北高の制服は黒い学ランに金ボタン。東高も表は黒の学ランとはいえ、銀ボタンだし若干作りも違うので、両校の制服は全くの別物だ。だから雪はわざわざ北高の学ランに身を包み直している。私は変装も何もないので東高のセーラー服のまま隣を歩いているけれど、私達が北高にやってくるまでに部活を始めた北高生達は私達になど目もくれない。
「というわけで、もし聞かれたら京花には俺の彼女役をしてもらうわけだけど」
「……別にいいよ。どうせ玄武に会うまでに引き留められたらの話だし」
男子校の北高に私が入るためにはその口実しかない。そして、本来なら玄武の前でも、雪が北高生で私は東高にいる彼女で、なんて設定を貫くのが望ましいけれど、雪は玄武の面々に顔が割れている可能性が多いにある。
「引き留められるか? 意外とバレないと思ってるんだけどな、この格好」
またもや軽口でそう答える。雪は、普段は自然に放っている黒髪を、今日はワックスでピッチリと固め、眼鏡も外していた。お陰で、いつもなら漫画にでも出てきそうな生徒会長の見た目なのに、今日はただのイケメンだった。ちょっとだけチャラくも見える。