君と恋とエトセトラ
第二話 崇津市の東西南北


 崇津(たかつ)市には、そこそこ歴史のある崇津市立高校が東西南北に一校ずつある。崇津市立東高等学校、崇津市立西高等学校、崇津市立南高等学校、崇津市立北高等学校。長いので私達は方角だけで高校を呼んでいる。崇津市は、全国でも一、二を争う田舎かつ面積の大きい県に所在していて、それに倣ったかのように田舎かつ広大だ。田舎あるあるというべきか、伝統と歴史を重んじる崇津市の四つの高校には、それぞれの伝統がある。

 その伝統を体現するように、今日も校門前には一人の生徒と、その手下のような生徒が半歩下がってずらりと並ぶ。気持ち一番前に立つ生徒がすぅ、と息を吸い込んだ。


「出てこいよ、青龍(せいりゅう)ーッ!」


 呼ばれたことに気が付いたみんなは一斉に窓の外を見る。校門の前に立つ生徒がニッと口角を吊り上げるのが見えた。お、と誰かが声を上げる。


朱雀(すざく)のお出ましか」

「新学期のご挨拶かよ……どーします、百一代目」


 崇津市立の東西南北高は、代々不良チームが四神に準じた名を名乗る。我等東高は青龍、西高は白虎、南高は朱雀、北高は玄武。高校設立当初から続いているのかどうかは知らないが、各高のトップは自分が何代目なのかを把握している。白銀は百一代目だ。なんとも語呂が悪いが百一代目。なんでこんなに語呂が悪くなってしまったかというと、東高は圧倒的実力主義で下克上も許される伝統なので、とにかく現役トップに勝てば次の番長になる。だから他の高校に比べてトップの入れ替わりが激しく、白銀は百一代目だ。


「出るに決まってんだろ。行くぞ」

「はい!」


 勢いよく返事をした仲間達を引き連れ、白銀は教室を出ていく。私も後ろをついていく。え、と白銀はうっかり間抜けな顔をして振り向いた。

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