君と恋とエトセトラ
「あ、すみません……烏丸先輩ですよね……?」
ぐす、と泣きじゃくる声でも聞こえてきそうなくらい落ち込んだ莉乃ちゃんが、そっと雪を見上げる。背の高い雪からすれば、百五十センチない莉乃ちゃんの上目遣い攻撃はクリティカルヒット間違いなしだ。
「あぁなに、空気読まないで本部の中入っちゃった?」
が、まるで効果がない。それどころかドンピシャで言い当てた。寧ろお前が空気読め、と多分その場にいた全員が思った。
「……はい。すみません……」
莉乃ちゃんは少しだけ俯いて肩を震わせる。泣いてるのか。上目遣い攻撃の次は涙攻撃だ。さすがの雪にもこれには困るだろう。そして少なくとも、後から白銀が頭を抱えて反省するはずだ。
「あぁ、悪い悪い、俺がどかないと出れないんだよな」
が、やはり雪にはまるで効果がない。それどころかすっと脇によけ、ぽかーんとする莉乃ちゃんに「ほら出て行っていいぜ」と促す。
「……すみませんでした……」
そろそろと莉乃ちゃんは出ていき、廊下の二人はほーっと胸を撫で下ろす。そのまま「じゃ、俺達これで……」とそさくさと、バツが悪そうにいなくなった。代わりに雪が中に入ってきて、さっきまで莉乃ちゃんが無断で座っていた場所に腰を下ろす。
「で? なんだあれ?」
「あぁ、ちょっとした勘違い一年女子が入ってきたから。出て行けって言っといただけ」
「ふーん、なるほどね」
「幹部制、導入したほうがいいかな」
自分の状況把握が間違っていないことを雪が確認したところで、白銀は徐に切り出す。
「なんで?」
「主要メンツしか入らないように、って曖昧じゃね? 二年以上には浸透してるけど、一年には分かりにくいんじゃないかと思って」
「確かに、溜まり場でも幹部が仕切るって決まってるほうが分かりやすいんだよな」
疑問を呈する雪に対し、羽村は頷く。桐椰先輩が引退した後はすっかり緩くなっていた幹部制度。統率なんて堅苦しい、と白銀はぼやいていたけれど、必要性があるのも事実なようだ。