君と恋とエトセトラ
「ゴールデンウィーク明けた途端これだからな。完全にいまの四神がナメられてるとしか思えないな」


 雪のどこか飄々とした言い方に、白銀は悔しそうに唇を噛んだ。

 その麒麟は、数年前まではひっそりと息を潜めていた。理由は、去年までの四神のリーダーが「史上最強の死神(ししん)」などと恐れられていたからだ。

 まず、白虎。圧倒的な人徳で大勢の手下を抱えた祭り好き、年上にさえ“兄貴”と慕われた人たらし。桐椰先輩とはまたタイプが違って、憎めないのではなくどうしても人として好いてしまう人だったらしい。お陰で言葉の通じない猿みたいな不良すら彼の掌の上で大人しくしてしまうとか。

 次に、朱雀。どこからどう見ても女にしか見えない美貌で次々と男を陥落。恋愛対象が変わった男もいるらしいとまことしやかな噂が流れるほど妖艶な美女だったらしい。喧嘩の強さはそれなりだったが、その姿を見てしまうと手を出す気になれないのだとか。因みに現朱雀の美岳が入学するのと入れ替わりに卒業していて、美岳が勝利したのはいわばつなぎに当たる相手だった。

 ……なんて、白虎と朱雀は例年通りのネタみたいなトップのネタ感が突き抜けていただけといえばそうだった。けれど、玄武と青龍は、不良にいわせれば悪夢のような相手だったらしい。

 玄武、当時五十六代目。崇津東西南北でトップレベルの偏差値を維持する──なんて井の中の蛙的な評価を「名門」の一言に代えてしまうような高貴な空気を醸し出す男。黒い学ランを肩に羽織り、地面を打つように竹刀を構えている姿が印象的な人だった。口を開けば相手に対する悪口雑言が絶えないが、その裏には本人が隠したがっても隠し切れない品が伺える、変に優美(ゆうび)高妙(こうみょう)なところがあった。そして、年功序列を第一とする玄武で、例外的に一年生からトップを務めた。三年生になると同時に例年通り引退したものの、玄武では既に伝説。その優秀さも、桐椰先輩が規格外なせいで霞んでいるものの、近年の玄武史上指折りだという。

 そして、青龍──桐椰先輩だ。まさに軽薄浅慮、能天気で女好きでふらふら遊んでばかり、としか見えないくせに、その内面は思慮深い。白虎が“兄貴”と表立って慕われていたのとは少し違って、桐椰先輩は誰にとってもいざというときの頼みの綱。桐椰先輩に声をかけられて従わない人なんていない。
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