CRAZY LOVE
「ここから先はお任せします」
緊張感を漂わせながら堅い表情で腰を折る男を見て。
「ああ、はいはい。りょ~かい」と、思わず出る大きな吐息。
穏便に済ませることが出来なかったこの状況に無性に気が重くなる。
ここまで手を煩わせた時点で今更手遅れの感は否めないが。
最後は忠実な犬に戻って尻尾を振ってくれることを願うしかない。
「アイツの出迎えは?」
「テツさんとオミの二人です」
「あ~、まぁ予想通りか」
オミは狙った獲物は逃がさない蛇みたいな男で、そんな奴の手綱を握ことができるのはアイツだけ。その飼い主が不在の今、奴を扱える人間は連れであるテツリしかいない。
「ってか、オミはお利口にしてたのか?
アイツのことだから一緒に同行できなくて拗ねてたんじゃねぇ?」
「はい、仰有る通りです。いつもの無口に拍車がかかり、不機嫌は隠せてなかったですね」
「はは、やっぱりな。あれ以上無口とか周りには迷惑極まりないな」
「ええ。返事もまともに返さないので、堪忍袋の緒が切れたテツさんに厳しく叱咤されていました」
「ククッ、だろうな」
束の間の休息。雑談を楽しんでいる内に、フジの緊張感が和らぐのを感じた。
「今日は長い一日になりそうだな」
スーツの胸ポケットから煙草を取り出し咥えると、すかさず火の灯ったライターを差し出す男。厳つい風貌とは裏腹にいつも配慮が細かい所まで行き届いている。
今回此処に集った武闘派の一人で、この荒くれ者達を率いたフジは誰にも懐かない狂犬と呼ばれ、この界隈で名を馳せていたのだが。
かつてのその姿も今ではすっかり鳴りを潜めて、見事なまでの忠犬ぶり。
アイツはそんな男をよくここまで手懐けたものだ。