本当の姿は俺の前だけな

第1話 運命の出会い

○川崎莉奈の家(朝)
高校一年生の川崎莉奈は胸にコンプレックスを持ってる。
自信がなく内気な性格。
黒髪ツインテールの髪にダサいメガネで学校の制服を着た。

川崎莉奈「それじゃ、行ってきまーす」
母親に挨拶をし学校へ向かった。
外は秋晴れだった。

○学校・教室(朝)
川崎莉奈(はぁ、どうして私には胸がないんだろ)
(中学から止まったままだなんて)
窓際の席でAカップの胸を触りながら大きなため息をつく。
他の女子生徒の胸を羨ましそうに見る。
胸がないのは自分だけだと卑屈になった。

川崎莉奈(でも明日は休み)
(唯一の楽しみが待ってるんだから、今日一日頑張らないと)
莉奈は嬉しそうな顔を見せる。
小さくガッツポーズした。

女子生徒A「ねぇ、また川崎さんひとりでニヤニヤしてるよ」
女子生徒B「変人なんだから仕方ないよ。ダサいメガネしてるし、あれじゃ友達もいないね」
二人は莉奈を哀れな目で見る。
興味はすぐに消え騒がしくなる廊下へ視線を向ける。

女子生徒A「見て見て、鬼龍院先輩よ。朝から拝めるなんて、今日はいい事があるかもー」
女子生徒B「司様のイケメンは目の保養よね。カノジョになれたら、どれだけ幸せなんだろう」
女子生徒A「でもさー、ファンクラブとかあるし、目の敵にされそうじゃなーい?」
興奮する二人の女子生徒。
眼差しの先にいるのは高校二年生の鬼龍院司という超イケメン男子。
薄い茶髪でチャラそうに見える。
ファンクラブのメンバーに囲まれながら教室へ歩いていた。

○学校・廊下(朝)
鬼龍院司「おいおい、こう囲まれてちゃ歩けないじゃないか。まっ、これも俺様がカッコよすぎるせいか」
女子生徒C「きゃー、司様ー、こっち向いてー」
飛び交う黄色い声援にポーズを決める司。
右手で軽く髪をかきあげ、流し目で女子生徒に熱い視線を送る。
毎日繰り返される同じ光景だった。

○学校・教室(朝)
川崎莉奈「鬼龍院先輩ってカッコイイけど、俺様系で苦手なんだよね。でも…周りも胸が大きい子ばっかりだし、男子はそういうのに惹かれるのかなぁ」
莉奈はカレシが欲しくないわけではない。
胸が小さく劣等感から自分の殻に閉じ篭っている。
生まれ持った運命だと諦めていた。

○学校・廊下(朝)
鬼龍院司「姫達、俺様に夢中になるのはいいが、遅刻はよくないぜ? さぁ、それぞれのクラスへ戻る時間だ。先生に迷惑かけちゃダメだぞっ」
両手を広げ群がる女子生徒に教室へ戻るよう言う司。
本から飛び出して来た王子のよう。
失神しそうになる女子生徒まで現れ、廊下は一時騒然となった。

女子生徒C「司様、いいえ、司王子、最後にもう一度だけ私に笑顔を向けてー」
鬼龍院司「仕方がないな。今日だけ特別だぜ?」
煌めく笑顔で司が女子生徒を見つめる。
女子生徒の顔は真っ赤に染まり、悶絶するほど喜んでいた。
他の女子生徒もあとに続いてしまい、混迷を極め収集がつかなくなった。

○学校・教室(朝)
川崎莉奈「いつも思うけど騒がせすぎだよね。だけど私とは無縁の世界だし気にしても仕方ないか」
ほんの少し嫉妬している莉奈。
胸が人並みにあればあの場所にいたかもしれない。
そう思うと心が痛みだした。

○川崎莉奈の家(祝日の朝)
川崎莉奈「よし、準備はこれでいいかなっ」
ダサいメガネからコンタクトに変更して莉奈は素顔を晒す。
髪型もポニーテールにし、パッドを何枚も重ねて憧れのDカップにする。
理想の胸が自信をつけさせ、学校では見せない笑顔だった。

川崎莉奈「やっぱり胸があると全然違うなー。印象がガラッと変わるし、それに…男の人が胸の大きい人を選ぶのも分かるよ」
一瞬だけ暗い顔を見せるも、莉奈はすぐ笑顔に戻る。
せっかくの休日の楽しみを台無しにしたくなかった。
私服も流行りものを選び、別人に変身できる喜びに浸る。

川崎莉奈「おかしいとこ、ないよね…? うん、大丈夫そう。今日は隣の県まで行ってみようかな」
鏡の前でくるりと回り、モデルのように何度もポーズを決める莉奈。
胸さえあれば満更でもないと自負する。
自信に満ち溢れた顔で家を出発した。

○歩道橋の上(午前中)
透き通る青い空はまさにお出かけ日和。
ほどよく吹く風が莉奈に爽やかさを与える。
パッドの力もあり普段より自分に自信が持てた。

川崎莉奈「いつもと違う感じで気持ちがいいなー。何かいい事でも起きそうな予感がするよ」
風に靡く髪をかきあげながら、莉奈は満面の笑みを見せる。
胸があるだけで違った景色になる。
周囲の目を気にせず莉奈はゆっくりと景色を楽しんでいた。

川崎莉奈「今日はどこ行こうかな。パフェとか食べたいし、洋服も見たいなっ」
普段は地味だがファッションには興味がある。
すべては胸のコンプレックスが原因で、顔見知りの前では大人しめの服装だった。
学校でパッドをつけるわけにもいかず、もしバレでもしたら偽乳呼ばわれされる。
それなら地味で目立たない方がマシだと莉奈は考えていた。

川崎莉奈「ここは人通りが多いなー。でも気にする事なんてないもん。今の私は理想の自分なんだから」
最高の休日を楽しんでいると、想定外の事態が莉奈を襲った。

川崎莉奈「えっ…あの人って鬼龍院先輩よね。どうしてここにいるのよー」
休日に初めて顔見知りと出会い、莉奈は激しく動揺する。
赤面した顔で反射的に屈んでしまい、隙間からこっそり司を眺めた。
司は横断歩道を渡るらしく、信号待ちしている。
赤から青に信号の色が変わると、莉奈の進行方向へ歩き出した。

川崎莉奈「ち、ちょっと、このままじゃ鉢合わせしちゃうよ。あっ、でも、私なんて顔も名前も覚えていないから平気か」
自己完結し立ち上がると、莉奈は司を目で追いながら動き始めた。

○横断歩道(午前中)
横断歩道を渡る司の瞳に、お年寄りが転ぶ姿が映り込む。
自然と体が反応し、司はお年寄りに走り寄った。

鬼龍院司「大丈夫かい、マダム。俺が反対側まで連れて行ってあげるからな」
お年寄り「すまないねぇ、アタシは足が悪くて…」
鬼龍院司「気にする事はないさ。ほら、俺の背中に乗りな」
司は優しくお年寄りに話しかけおんぶする。
お年寄りの荷物を片手に持ち、軽い足取りで反対側まで渡りきった。

お年寄り「本当に助かりました」
鬼龍院司「困ってたら助けるのは当たり前だから気にする事ないさ」
ひと言だけ告げると、司は莉奈の降りる階段の方へ向かい始めた。

○歩道橋(午前中)
川崎莉奈「鬼龍院先輩って優しいんだ…。学校とは言葉遣いが全然違うし、どっちが本当の鬼龍院先輩なんだろう」
イメージと違う司の行動に、莉奈は困惑するばかり。
大勢の人々が行き交う中、その瞳には司しか映っていない。
何も考えられず空っぽの頭で歩いていると、階段を踏み外してしまった。

○歩道橋・階段下(午前中)
大ケガを覚悟する莉奈。
目を瞑り衝撃に備えていると、優しい温もりをその肌に感じる。
今いる場所は司の胸の中で、お姫様抱っこされている状態であった。

川崎莉奈(えっ…。鬼龍院先輩が私を受け止めてくれたの)
鬼龍院司「危なかったね。俺がいなかったらケガじゃ済まなかったぜ?」
交差するお互いの瞳。
時間が止まったように二人は見つめ合う。
どれくらい経過したのか分からない中、顔が真っ赤に染まった莉奈から言葉が飛び出した。

川崎莉奈「あ、あの…あ、ありがとう…ございます」
鬼龍院司「姫を助けるのは当たり前だ。それにしてもキミって…美しいね」
川崎莉奈「ふぇっ、わ、私が美しい!?」
司のひと言で莉奈は激しく動揺する。
鼓動が激しくなり頭の中が真っ白になってしまった。
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