本当の姿は俺の前だけな

第12話 救えるのはひとりだけ

○撮影現場(朝)
鬼龍院司「俺の女神を困らせてるのは誰かなー?」
莉奈の窮地を救ったのは司。
化粧と衣装でいつもより輝いて見えた。

男性モデルA「つかぴーの知り合いだったのか」
鬼龍院司「俺のカノジョだ。よろしくな」
男性モデルB「つかやんがカノジョ作るとか珍しいやないの」
男性モデルC「それにしても見れば見るほど美人だよねー」
モデルのひとりが莉奈の全身を見る。
慣れてない莉奈は顔が真っ赤になった。

川崎莉奈「あ、あの…どこか変ですか?」
男性モデルA「いんや、おかしいとこなんてないよ。それよりさ、撮影終わったらお昼でも──」
鬼龍院司「何、俺のカノジョを口説こうとしてるんだ」
男性モデルA「冗談だよ、冗談。つかぴー怒らんでよ」
司の迫力で男性モデルは後退りする。
莉奈を守るように司は男性モデル達を追い払った。

鬼龍院司「気を悪くしないでくれ莉奈。悪いヤツらじゃないんだ」
川崎莉奈「大丈夫ですよ、司先輩。ちょっと驚いただけですから」
(逆ナンとか初めてされたよ…)
今になって鼓動が激しくなる。
心の奥をくすぐられた感じだった。

女性スタッフA「鬼龍院くん、そろそろスタンバイお願いね。他の子達もよ」
一斉に現場が慌ただしくなる。

鬼龍院司「それじゃ行ってくるぜ」
川崎莉奈「頑張ってくださいね。私、ちゃんと見てますから」
鬼龍院司「見るのは俺だけにしとけな?」
顔を急接近させる司。
莉奈の顔を顎クイし、瞳を見つめた。

川崎莉奈「う、うん…」
(き、キスされるのかと思ったよ…)
鼓動が今日一番の激しさとなる。
ほんのり顔が赤く染まった。

女性スタッフA「鬼龍院くん、早くー」
鬼龍院司「今すぐいくぜ。莉奈、また後で」
莉奈に投げキッスする司。
軽い足取りで撮影場所まで歩く。
莉奈は司の後ろ姿をただ眺めていた。

撮影が始まると周囲に緊張が走る。
聞こえるのはシャッター音と掛け声のみ。
莉奈は静かに端っこで見学した。

川崎莉奈(いつもの司先輩とは表情が違うなー)
(さすがとしか言いようがないよ)
見たことのないキメ顔とポーズに、莉奈は感心するばかり。
見とれるほどかっこよく夢中になっていた。

女性スタッフA「川崎…莉奈さんでしたよね?」
スタッフが莉奈に優しく声をかける。
笑顔で莉奈の隣に立った。

川崎莉奈「は、はい、そうですけど…」
緊張しながらりなは返事をした。

女性スタッフA「鬼龍院くん、すごいでしょ。まだ高校生なのに、カメラを通すと光り輝くのよ」
川崎莉奈「そうなんですか? 確かに司先輩はカッコイイですけど…」
普段から会話に慣れていない莉奈。
司は別だが見ず知らずの人とはぎこちなかった。

女性スタッフA「あの子、すごい人気あるのよ。女子からのファンレターが読み切れないくらいなんだから」
川崎莉奈「そんなにですか…」
(やっぱりそうだよねー)
(私なんかがカレシになっていいのか悩んじゃうよ…)
ネガティブ思考になる莉奈。
急に胸が気になり始める。
自然と伸びた手は自分の胸に当たっていた。

女性スタッフA「私、女性ファッション誌も担当してるんだけど、アナタなんていいかなって思ってるのよ」
川崎莉奈「わ、私がですかっ!?」
驚きのあまり莉奈の声が裏返る。
小さな瞳が大きく開いた。

女性スタッフA「そうよー。絶対ウケがいいと思うの」
川崎莉奈「だ、だけど、私…その…む、胸が…」
下をうつむき莉奈は自分の胸を見た。

川崎莉奈(だってこの胸じゃ…)
(モデルの人って大きい人ばっかりだし)
女性スタッフA「あっ、もしかして胸の大きさを気にしてる?」
スタッフの問いかけに莉奈は軽く頷いた。
暗い顔で少し寂しそうであった。

女性スタッフA「それなら気にしなくていいのよ」
川崎莉奈「そ、それってどういう事ですかっ?」
急に明るくなる莉奈。
声が弾んでいた。

女性スタッフA「そこは取って置きの技があるのよ」
川崎莉奈「取って置きの技…?」
(もしかして胸がなくても平気とかかな)
(ううん、技って言ってるんだし、業界ならではの秘策とか…)
莉奈の顔は期待でいっぱいだった。
頭の中で自分がモデルになった姿を想像した。

女性スタッフA「それはねー、加工技術よ」
川崎莉奈「加工技術って…もしかして肌ツヤをよくしたりするヤツですか?」
女性スタッフA「そうよー、胸の大きさをいじれば何も問題ないんだから」
スタッフは満面の笑みを浮かべる。
手を差し伸べて莉奈をモデルへの道に誘う。

川崎莉奈(やっぱり…。ここでも胸の大きさが大事なのか)
暗い顔で沈み込む莉奈。
頭の中は過去のトラウマが蘇っていた。

川崎莉奈「え、えっとですね、やっぱり私にモデルは無理かなーって」
女性スタッフA「そう? 可愛いのにもったいないなっ」
川崎莉奈(胸を加工するなんて、今の私には無理だよ)
(だって司先輩は…ありのままの私を好きって言ってくれたんだから)
莉奈は悔し涙を堪える。
司に迷惑はかけられないと、笑顔をスタッフに見せた。

鬼龍院司「終わったぞ、莉奈」
川崎莉奈「お、お疲れ様です」
女性スタッフA「それじゃ私は失礼するわね」
衣装のまま司は莉奈に近づいていく。
スタッフは邪魔にならないよう、その場から去っていった。

鬼龍院司「何か話でもしてたのか?」
川崎莉奈「うん、単なる世間話ですよ」
(司先輩に心配かけちゃダメ…)
川崎莉奈「司先輩って本当にカッコイイですよね。私には勿体ないくらいです」
莉奈の心は泣いているが司には笑顔を見せた。

鬼龍院司「そんな事はないさ。さくっと着替えてくるから、お昼でも食べに行こうな」
川崎莉奈「はい、待ってますからねっ」
(胸の事は忘れよう…)
(だって今日は…司先輩とのデートなんだから)
莉奈は満面の笑みで司が着替え終わるのを待つ。
十数分後にはいつもの司が莉奈の目の前に戻ってきた。

鬼龍院司「お待たせ」
川崎莉奈「そんなに待ってませんよ」
鬼龍院司「女神を待たせるのは俺の主義じゃないんだ。それに──いや、なんでもない」
(いつもと莉奈の様子が違うな)
(何かあったのは間違いないが…)
司は笑顔であるも莉奈の違和感に気づく。
何も言わず莉奈を抱きしめた。

川崎莉奈「つ、司先輩、ここ、人が見てますからっ」
焦る莉奈の顔は真っ赤だった。

鬼龍院司「そんな事はどうでもいい。莉奈、俺だけを見てくれ。俺も莉奈しか見ないからな」
胸に響く司の言葉が莉奈の心を軽くする。

川崎莉奈(やっぱりこの温もり…)
(司先輩の優しさが伝わってくるよ)
恥ずかしがっていた莉奈も目を瞑り、司の温もりに癒された。
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