本当の姿は俺の前だけな

第2話 運命のイタズラ

○歩道橋・階段下(午前中)
鬼龍院司「この俺が言うんだから間違いない。キミは今まで俺が出会った中で一番だ」
川崎莉奈「そ、そんなこと…。それよりも…降ろして欲しいんですけど」
全身が火照り莉奈は羞恥心に支配される。
震える声で自分の意思を司に伝えた。

鬼龍院司「おっと、それは悪かった。俺としたことが、これでは王子失格だな」
優しく莉奈を降ろす司。

川崎莉奈(やっぱり学校での鬼龍院先輩と変わらないのかな)
(だけど…あの優しさは別人に見えるよ)
莉奈の視線は司の顔に向けられている。
鼓動が収まる気配がない。
初めて見るわけではないのに、莉奈の頭の中は司で埋まっていた。

鬼龍院司「そうだ、キミの名前を教えてくれないか?」
川崎莉奈「そ、それは…」
本当の名前を教えるわけにはいかず悩む莉奈。
どうしようか考えていると、司の顔が目の前にあった。

川崎莉奈「ひゃっ!? あ、あの、私急いでるので失礼します」
莉奈の真っ赤な顔がさらに赤く染まる。
鼓動は激しさをさらに増し、逃げるように司の前から走り去った。

鬼龍院司「本当に美人だったよな。また会えると嬉しいぜ」
ひとり取り残されても司は冷静だった。
謎の美人との再会を心から願っていた。

○ショッピングモール(午前中)
川崎莉奈「はぁはぁ、鬼龍院先輩、顔近すぎだよ。名前教えた方がよかったのかな。どうせ教えたって…同じ学校の人って気づかれなさそうだし」
莉奈の心に得体の知れないものが突き刺さる。
罪悪感ではないのは確か。
深呼吸で心を落ち着かせ、せっかくの休日を楽しむことにした。

○川崎莉奈の家・お風呂場(夜)
莉奈が湯船に浸かりながら考えるのは司のこと。
お姫様抱っこされた事が頭から離れない。
口元までお湯に浸かり今日の出来事を振り返っていた。

川崎莉奈(今まで気にしたことなかったのに)
(どうして鬼龍院先輩の顔が頭から離れないのよ)
悶々とする気持ちが莉奈を混乱へ導く。
再び鼓動が激しくなり、顔までも赤面してしまう。

川崎莉奈(忘れよう。学校で会っても気づかれないし)
(それに…美しいのはきっと胸が大きかったからだよ)
胸を触りながら少し残念そうな顔をする莉奈。
昔のイヤな思い出が頭の中で浮かんだ。

○川崎莉奈の中学校時代の冬・昇降口(放課後)
中学二年の頃、莉奈は付き合っていたカレシがいた。
その日もいつものように一緒に帰る予定だった。

カレシ「莉奈、実は大切な話があるんだ」
川崎莉奈「大切な話…? 何かな」
誕生日が近い事もあり、莉奈は何か期待するように笑顔を見せた。

川崎莉奈(きっとサプライズとかしてくれるのかな)
(何をしてくれるのか楽しみだよ)
期待に胸を膨らませる莉奈。
カレシからの言葉をドキドキしながら待っていた。

カレシ「あのさ、別れてくれないか?」
川崎莉奈「えっ、どうして…」
カレシからのひと言に莉奈は顔面蒼白となる。

川崎莉奈(夢じゃないよね…)
現実を受け入れられず、莉奈はただ呆然と返事を待っていた。

カレシ「実はさ他に好きな人が出来たんだ。莉奈と違って胸もあるし。だからごめんね」
言いたい事だけ言うとカレシは莉奈の前から走り去った。

川崎莉奈「ウソ…。単に胸がないからって理由なの…」
莉奈はショックを隠しきれず涙を流したのも気づかない。
胸がないというキーワードが心を深く傷つけた。

川崎莉奈「もういいよ。男の人って胸で判断するんだね。私、恋なんて絶対にしないから」
泣きながら大声で叫ぶ莉奈。
涙を手で拭いながら家に帰っていった。

○川崎莉奈の家・お風呂場(夜)
川崎莉奈「忘れよう、今日あった事も全部忘れればいいんだ。明日からの学校もいつも通りにしよっと。そもそも鬼龍院先輩には気づかれないだろうし」
気持ちを切り替え莉奈に元気が戻る。
お風呂から出ると髪を乾かしすぐにベッドへ潜り込んだ。

○学校の廊下・夢の中(夜)
鬼龍院司「やっと見つけたよお姫様。さぁ、俺様とキスをしようじゃないか」
川崎莉奈「き、キス…!? ま、待ってよ、私と鬼龍院先輩はまだ付き合ってもないんだし」
拒絶する莉奈を無視し司の顔が迫ってくる。
逃げようにも後ろは壁であった。
諦めた莉奈は目を瞑り、その瞬間を待つしか出来ない。
二人の唇が触れようとした時、映像はそこで途切れてしまった。

○通学路(朝)
川崎莉奈「あの夢はなんなのよ。悪夢としか思えないもん」
司とのキス寸前の夢を思い出すと、莉奈の顔が真っ赤に染まる。
心がトキメキを感じどこか落ち着かなくなった。

川崎莉奈「うぅ…。あんな夢、忘れてやるんだから」
赤面したまま莉奈は強がってみせる。
夢の事は忘れ学校へと急いだ。

○学校・教室(朝)
いつもの姿で登校する莉奈。
普段と変わらない日常を過ごそうとしていると、担任から話しかけられた。
担任「川崎、あとで職員室にプリント取りに来なさい」
川崎莉奈「分かりました…」
不服な顔をするも先生には逆らえない。
目立ちたくないのもあり、莉奈は素直に従った。

○学校・職員室(午前中)
莉奈はHRのあとすぐに職員室へと向かった。
ノックをしてから職員室へと足を踏み入れた。

川崎莉奈「失礼しまーす。プリントを取りに来ました」
担任「来たか、川崎。ほれ、このプリントを配っといてくれ」
川崎莉奈「はい…」
重たいプリントを受け取る莉奈。
量が多く前が見えにくかった。

○学校・廊下(午前中)
川崎莉奈「意外と重たいなー。前も見えにくいから気をつけないと」
僅かにふらつきながら、莉奈は教室へ戻っていく。
すれ違う生徒は全くもって無関心。
それでも莉奈は助けを乞う事なく歩き続けた。

川崎莉奈「最初はバランス取るのが難しかったけど、だいぶ慣れてきたかな」
あとは曲がり角にさえ気をつければ教室にたどり着ける。
莉奈は慎重な足取りで進んでいたが、曲がった瞬間に何かとぶつかった。

川崎莉奈「いったーい」
ぶつかった衝撃で莉奈は尻もちをつく。
プリントは床に散らばり、メガネまで落としてしまった。

鬼龍院司「おっと悪い、俺様とした事が姫を傷つけてしまうなんて」
川崎莉奈「き、鬼龍院先輩!?」
ぼんやり見える姿と声で莉奈は相手が司だと分かる。
鼓動が激しさを増し、頭の中では見たばかりの夢が展開された。

川崎莉奈(お、落ち着きなさい、私)
(大丈夫、休みの日に会ったのだって分からないはずだし)
胸に手を当て莉奈が動揺を抑える。
体が動かないでいると司が話しかけてきた。

鬼龍院司「ケガはないかい? それにしても…プリントの量半端ねーな。女子に持たせる量じゃないだろ」
優しく莉奈に声をかけると、司は散らばったプリントを拾った。

川崎莉奈「あ、ありがとうございます」
鬼龍院司「お礼なんていいぜ。王子として当然の行動だからな」
川崎莉奈(よかった、気づいてないみたい)
安心した莉奈はプリントを持ち立ち去ろうとする。

鬼龍院司「ん? その声、それに…」
莉奈に顔を近づける司。
顎クイで莉奈の顔を間近で見ようとした。

川崎莉奈(ま、待って、これって夢と同じじゃない)
(ど、どうしよう、体が動かないよ)
真っ赤に染まった顔を莉奈は隠したくても隠せない。
司が何をしてくるのか分からず、心臓が今にも飛び出しそうであった。

近すぎる二人の距離はキスするようにも見える。
時間が止まったまま、莉奈と司は互いを見つめ合っていた。
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