本当の姿は俺の前だけな

第4話 諦めない大切さ

○学校・下駄箱(放課後)
鬼龍院司「川崎莉奈、返事はどうだ? 俺様は本気だぜ」
甘いマスクで司は莉奈の返事を待った。

川崎莉奈(ど、どうしよう…)
(本気なのかな、それともからかっているのかな)
胸の小さい自分が告白されるはずがないと思う莉奈。
学校一のイケメンである司からなどあるはずがなかった。

川崎莉奈「その、私は…」
中学生頃に味わった地獄が頭の中に蘇る。
心が大きく揺れ動き、答えをなかなか出せずにいた。

川崎莉奈(からかっているようには見えないけど…)
(でも…鬼龍院先輩だって胸の大きい人が現れたら…)
ネガティブな思考が莉奈の中を支配する。
勇気ある一歩が踏み出せず、莉奈は大きな決断をした。

川崎莉奈「ご、ごめんなさい。私…失礼します」
莉奈は涙を見せないよう、下を向きながら走り去った。
ひとり取り残された司だが、その顔は薄らと笑みを浮かべていた。

鬼龍院司「やっぱり、川崎莉奈には人に話せない何かがあるんだな。きっとそれが原因で俺様の告白を断ったに違いない」
沈むどころか司は次の作戦を考え始める。
絶対に諦めないという想いが強かった。

鬼龍院司「なにせ川崎莉奈は、俺様が唯一ひとめ惚れした女子なんだ。心が引き寄せられる感覚なんて、初めての経験だからな」
司は晴天のような笑顔であった。
一度フラレたくらいでは諦めない性格の司。
俄然やる気が湧き上がっていた。

○通学路(放課後)
川崎莉奈「はぁはぁ、どうしちゃったんだろ私。確かに鬼龍院先輩はイケメンだけど、そういう人って胸で判断しそうだから」
立ち止まって莉奈は司を冷静に分析する。
過去のトラウマで告白を受け入れられない。
心が拒絶反応を起こしてしまった。

川崎莉奈「私にもっと胸があればなぁ…。でも、鬼龍院先輩はどうして私だって気づいたんだろ」
自分の胸を触りながら莉奈は疑問に思った。

川崎莉奈「声に特徴はないし、髪型だって違ってたし。そもそも胸は盛りすぎてたわけで…。そういえば瞳がどうとか言ってたよね」
胸の大きさが違いすぎるのに、正体がバレた理由が分からない。
莉奈は難しい顔で考えるも、告白を断ったのだからと切り替え家に帰っていった。

○川崎莉奈の家・部屋(夜)
お風呂上がりの莉奈は、ベッドの上で膝を抱えて座っていた。
髪は乾かしており、ロングヘアーのままであった。
可愛いウサギの部屋着を着用している。

川崎莉奈(なんで鬼龍院先輩の事が頭に浮かぶのよ)
悶々としながら莉奈は顔を膝に埋める。
心が落ち着かなくなり眠気がなくなってしまった。

川崎莉奈(うぅ…。告白されてから私、変になっちゃったよ)
ひとりで赤面し羞恥心が莉奈を襲う。
司の事が頭から離れず、寝たのは深夜遅くであった。

○学校・川崎莉奈のクラス(朝)
担任「川崎、遅刻するとか、たるんどるなー」
川崎莉奈「すみません…」
担任「罰として放課後、裏庭の掃除をしときなさい」
川崎莉奈「はい…」
言い訳せず莉奈は素直に担任の指示に従う。
心では納得しておらず、不満顔で自分の席に座った。

川崎莉奈(今日はついてないよ)
(これも鬼龍院先輩の告白が悪いんだから…)
告白シーンが頭に浮かび、ほんのり顔が赤く染まる莉奈。
心にトキメキを感じるもすぐに否定した。

○学校・川崎莉奈のクラス(お昼)
窓から外を眺めながらお昼を食べるのが莉奈の習慣。
グラウンドを見ていると、司と司を取り巻く女子生徒達が莉奈の瞳に映る。
川崎莉奈(ずいぶんと楽しそうじゃない、鬼龍院先輩)
(私に告白した翌日なのに…)
嫉妬感丸出しで莉奈は司を見ている。
自分でフッたはずが矛盾する感情に違和感を覚えた。

司は楽しそうな顔で女子生徒と話をしているよう。
失恋した翌日とは莉奈には思えなかった。
川崎莉奈(べ、別に私はなんとも思ってないけどっ)
強がっているため、莉奈自身も気づかないうちに顔が膨れる。
お弁当を食べながら不満が今にも爆発しそうだった。

川崎莉奈(それにしても…周りにいる女子って胸が大きい子だけみたい)
(むぅ…。やっぱり鬼龍院先輩も他の男子と同じなんだ)
軽蔑の眼差しを司に飛ばす莉奈。
胸がない自分に対する八つ当たりにすぎない。
膨れた顔は口の中に食べ物が入ってるようにも見えた。

○学校・グラウンド(お昼)
鬼龍院司「まいったなぁ、いくら俺様でもこんなには食えないかもぜ」
ファンクラブメンバーA「司様が喜ぶ姿が見られるだけで十分ですわ」
ファンクラブメンバーB「わたくしのも貰ってくださーい」
司を囲んでいるのはファンクラブのメンバー達。
お弁当の渡し合いで司は身動きがとれなくなる。
司は困るどころか終始笑顔を向けたままであった。

鬼龍院司「安心しな、心のこもったお弁当は俺様が全部受け取ってやる。よし、姫達の想いが詰まったお弁当は、この俺様の名誉に懸けてありがたく食わせてもらうぜ」
ファンクラブ全員のお弁当を司は丁寧に受け取る。
黄色い声援を撒き散らしながら、司達はグラウンドをあとにした。

○学校・裏庭(放課後)
川崎莉奈(はぁ、裏庭ってこんなに広かったっけ…)
サボる事なく莉奈は真面目に掃除をしていた。
竹箒で落ち葉を集めゴミ袋へ入れる。
単純作業ではあるが、何度も繰り返すと疲れてしまう。

川崎莉奈「あー、もぅ、これも、ぜーんぶ鬼龍院先輩のせいだよ」
大声で司に八つ当たりする莉奈。
空に向かって自分の運の悪さを嘆く。
普段掃除をしない場所で、裏庭には莉奈ひとりだけであった。

川崎莉奈「だいたいさ、私に本気だとか言っておいて、他の女子にちやほやされ満足する意味が分からないよ」
嫉妬なのか莉奈の中で怒りが収まらない。
掃除の手が止まりはしないが、顔は不満だらけだった。

川崎莉奈「…鬼龍院先輩の告白は、やっぱり…からかってたんだよね」
少し残念な顔を見せる莉奈。
胸の大きさに関係なく、司が本気だったらと期待が僅かにあった。
過去に植え付けられた恐怖心は簡単に拭えない。
司の告白から逃げた理由は、過去のトラウマが原因だった。

川崎莉奈(私に胸があったら、人生変わってたのかな)
(あの時もフラれる事なかっただろうし…)
涙が出そうなくらい莉奈は悔しい顔をする。
胸という自分にはどうする事できない存在。
努力しようにも無意味で、さらなる悲しみを莉奈に与える。
莉奈が無気力に襲われていると、後ろから何者かに優しく抱きしめられた。

鬼龍院司「やっと捕まえたぜ。もう俺様から逃げられないからな」
川崎莉奈「き、鬼龍院先輩!? ど、どうして…」
鬼龍院司「俺様は一度や二度フラれたくらいじゃ諦めないのさ」
耳元で囁く司に莉奈の顔は真っ赤に染まる。
鼓動が大きくなり、持っていた竹箒を落としてしまう。
背中に感じる温もりが莉奈は心地よく感じていた。

川崎莉奈「あ、あの…。だって私…」
伝わってくる司の心音が莉奈に真実を伝える。
明るく照らす夕陽が二人の再会を祝福しているようであった。
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