第四幕、御三家の幕引
「……あのう、松隆くん」

「何?」

「その……私と桐椰くんは間に関西旅行組がいないのでまだ分かりますし、一組の月影くんがいるのも、並び順の関係で偶然そうなることは分かるんですよ……でも七組の松隆くんがそんなところにいるのはおかしくないですか……?」

「さっき鳥澤に頼まれてね。これは本当」


 そうか、出席番号月影の次は鳥澤……! 鳥澤くんも月影くんとどう接するべきか悩んでるだろうし、通路を挟んでいるとはいえ私と桐椰くんが隣に座っている席なんて冗談じゃないと思ったんだろう。それにしたって許すまじ、鳥澤くん。

 そんなこんなで、初っ端から、私を挟んで御三家が話し続けるという地獄の移動時間を過ごすはめになった。月影くんは「久しぶりだな」と冷ややかに一言を発して以来私にノータッチだし、桐椰くんに至っては私の存在に触れることすらない。しかも松隆くんと桐椰くんの間には私が入っているのに席を替わろうとも言ってくれない。頼むからこの微妙過ぎる位置を替わってほしいんだけどな!

「ねー、亜季はどこ回るか決めてるの?」


 そして前の座席にはふーちゃんがいる。私達の座る列のほうへ乗り出すように頭を出すふーちゃんに半ば辟易した。どれだけ関係者の固まっている席なのか、ここは。

 因みに修学旅行は制服と私服いずれも可で、荷物を減らすために大体の人が制服だ。ふーちゃんも私も、御三家も制服なのでなんとなく変わり映えせず、御三家推しが私服を拝む機会を失って悔しそうに地団太を踏んでいた。


「ううん、まだ……」

「えー、じゃあ一緒に回ろうよ。あたしもまだ決めてないからさー」


 ただ、その誘いは嬉しかった。“クラスに友達がいないわけじゃない”という状態は鹿島くんと付き合ったことで完全に崩壊したからだ。“死ねくそビッチ”とまではいかなくとも、「さすがにあんなに御三家と一緒にいたのに鹿島くんと、しかも蝶乃さんから奪ってまでして付き合ってるのはちょっと……」なんて目を向けない人はいない。しかもその点についてなんとも言い訳しがたいのは事実だった。

 目を輝かせながら頷くと、ふーちゃんは「あ、そうだこれね」と何やら紙束を渡してくれた。ホテル部屋割りと表題に書いてあったので、どうやら前から回ってきている連絡事項らしい。


「そっか、旅館とかじゃないから二人ずつか……」


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