第四幕、御三家の幕引


「……えっ」

「え?」

「なんで桐椰くんがうちでご飯作ってるの!?」


 突然我に返り、叫ぶと同時にテーブルを叩いて立ち上がってしまった。桐椰くんが私の行動に驚いたのはほんの一瞬で――なんなら私の体のほうが突然の動きにびっくりしてふらついてしまって――霞がかった視界の中で桐椰くんが「なんだそんなことか」なんて表情に戻ると共に再び私に背を向けるのが分かった。いやいやいや、慣れた手つきで何かを切ってるのは分かりますけれどもね。

 あれ、私、桐椰くんに出張家政婦さんサービスとか依頼した? 熱に浮かされて無意識にSOS発しちゃった? 慌ててスマホを見ると、桐椰くんから不在着信が三件入っていた。LIMEの送信履歴は記憶の通りだった。どうやら出張家政婦さんサービスは依頼してないらしい。いや、そんなことをしたとして桐椰くんが来るわけないのだけれど。……いや、来てくれるだろうけど。


「え、ねぇ、何? 桐椰くん何? ストーカー?」

「どこにご飯作りに来るストーカーがいるんだよ!」


 そこじゃないでしょう、桐椰くん。ぐつぐつと何かを煮込み始めたお鍋を覗き込むためにそろそろと立ち上がると「座ってろよ」と手の甲で額を軽く小突かれた。


「……何作ってるの?」

「豚汁とお粥。お粥は今から食べろよ。豚汁は今日の夜と明日の朝昼くらいに分けて食べればいいから」


 作り置き……。本当に主夫だな……と思いながら、椅子に座り込みなおして、頬杖をつきながら桐椰くんの背中を眺める。桐椰くんって家でもこんな風にご飯を作ってるのかな。ご飯を作るときってエプロンをつけてるイメージがあるけど、桐椰くんはしないのか、それとも家ではつけてるのか……。後ろから見てても、手際がいいなぁ。昔から作ってるだけでこんなに上手になるのかなぁ。


「で? 食べれんの?」


 お粥を作っている間、桐椰くんから話しかけられることはなく、漸く話しかけられたときには、桐椰くんはお茶碗を探していた。その横に寄って行って、自分で探して差し出すことで意志表明する。十秒とかからないうちに、そのお茶碗には真っ白いお粥とポツーンとした梅干しが載っていた。


「……ありがとう」

「ちゃんと冷ましながら食えよ。食べれるなら豚汁もよそうけど、食べれそう?」

「んー……お粥食べてから考える」


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