第四幕、御三家の幕引
 私が黙々とお粥を食べ始めると、桐椰くんは黙って向かい側に座った。食べる間ずっとじろじろ見られていると思うと落ち着かない――なんて思っていたのが伝わったのか、暫くするとスマホをいじり始めた。それでも、言葉を何も発されない以上、何を考えられているのか分からずに居心地は悪かった。


「……ごちそうさまでした」

「ん。豚汁は?」

「……ちょっと食べる」

「ん」


 食器棚からお味噌汁用の器を探しているうちに、豚汁が温め直された。そしてやはり、器を差し出すとよそってくれる。完全に至れり尽くせりだ。今度はお箸でそれをぼーっと食べる。最初はお腹なんて全然空いてないと思ったけれど、体は食べ物を欲していたらしい。段々と脳に栄養が行き渡るのを感じる。そういえば、飲まず食わずでいたせいで、トイレにすら行ってないことに気付いた。倒れるほど衰弱していない自分を褒めてあげたい。


「落ち着いた?」

「うん」


 ほっとしながら豚汁を飲み干して、温かいお椀を両手に抱えて暖をとって。


「お前、俺が来なかったら餓死してんぞ」


 はっと気づいた。そうだ、桐椰くんはそこまで甘くないのだ。いや、めちゃくちゃに甘いのだけれど、私に非がある場合には容赦なく叱ってくるのだ。それを考えると、現状の私は完全に桐椰くんにとってはブチギレ案件そのものだ。

 お陰で色々の疑問の前に気まずさが立ち塞がった。とりあえず一度この場から逃げたい。


「……ご飯食べたし、歯磨きしてこようかなー」

「そうだな、話はどこでもできるからな」


 駄目だ、どんなに私の具合が悪くてもそれとこれとは別にされる。逃がしてもらえない。慌てて立ち上がって物理的には逃げ出したけど、じろりと睨むような桐椰くんの目が背中から追いかけてくるような気がした。


「やばい、やばい……!」


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