第四幕、御三家の幕引
「あー、分かった、その反応、鹿島くんから聞いたんでしょ! 連絡が返ってこなかったら俺の風邪が伝染ってるぞ、ははん、みたいな! あの性悪生徒会長、よりによって終業式に風邪伝染していくんだから迷惑なもんだよね。これでけろっと治ってたら元旦に呪ってやる」

「へぇ、鹿島から伝染ったのかよ」


 しまった。口が滑った。自棄になって口を滑らせるなんて数日前の鹿島くんと同じだ。そんなものまで伝染してるなんて、なんて迷惑な人なんだ。


「一体何して伝染るんだよ」

「何もやましいことなんてしてません。無理矢理飲み物を買いにいかされただけです。病原菌の近くにいる経験が今までなかったので空気感染したんだと思います」


 安い弁明のように必死で顔の前で手を横に振ってみせた。桐椰くんは頬杖をついて不服そうだ。でも事実だ。


「……ま、別に何があっても責める筋合いねーけどな。お前と鹿島付き合ってんだし」

「……そうだよ、彼氏だもん」


 拗ねた正論にそれ以上返せなくなった。お陰で沈黙が落ちた。


「あ、そうだ、だからほら、桐椰くんがなんで来たのか教えてくださいよ」


 その沈黙を誤魔化そうとして慌てて話題を振る。すると、桐椰くんの顔は一瞬でバツがわるそうに変わった。


「……別に、お前の様子見に来ただけ」

「そんな看病の材料をドンピシャに持って?」

「……お前の妹から連絡来たんだよ」


 茶化すような口調で急かした結果、出てきた答えが予想外過ぎて、素っ頓狂通り越して間抜けな「は?」なんて声が出た。


「……なんで?」

「なんでって……連絡した理由は妹に訊けよ」

「え、じゃ、えと、なんて連絡きたの?」

「……お前が風邪ひいて家で一人だって。そんだけ」


 なんで優実が桐椰くんにそんな連絡を? 敵に塩を送るとはこのこと? そもそも私って優実にとって恋敵? 正直な心はそうだけど外見は鹿島くんという彼氏がいるわけだし。でも少なくとも優実は私のことを恋敵だと認識してる……? 

「え、え……」

「……だから、様子見に来たんだよ。お前、料理からっきしだし、ずぼらだから飲み物の買いだめもしねーだろうし。冷蔵庫に入れたからちゃんと飲めよ。体には足りてねーんだからな」


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