第四幕、御三家の幕引
 待て、待て、冷静になれ、私……! 桐椰くんの言葉や視界に邪魔されて上手く集中しない思考回路を必死に回す努力をした。優実が桐椰くんにそんな連絡をした理由はどうでもいい。桐椰くんが当たりをつけてる可能性はあるけど、あくまで憶測だ。聞いても意味はない。問題は多分……。


「……桐椰くんは、優実からそう聞いて、何も思わなかったんだ」

「は? 様子見に来てんだぞ、心配したに決まってんだろ」

「私が家で一人でいることを、何もおかしくないと思ったんだ」


 言い聞かせるような口調で責めても、桐椰くんの表情は変わらなかった。バレてるとバレていることに、驚いてないんだ。ここに来る時点で、桐椰くんは決めてたんだ。

 そう決めた理由は、修学旅行先のホテルで隠しそこなったことに気付いたからか、この家に来ることを優先したかったからか、どちらかは分からないけど。


「ねぇ、教えてよ、桐椰くん。私が養子だって、どうして知ってるの」


 無言の次の返事を、じっと待つ。お互いにそろそろ潮時だ。順番に倒れるドミノのように、私と御三家は少しずつお互いの秘密を(さら)け出す羽目になった。次に晒すべきなのは、この話だ。


「……今月の、頭」


 できるだけ答えを先延ばしにするように、聞いてもいない時期を口にして。


「お前の妹から聞いた」


 よりによって、想定していた最後の一人を挙げる。


「……優実から?」

「あぁ」

「なんで?」

「なんで……って言われても。話の流れで、急に」

「それ流れじゃないじゃん」

「……まぁ、流れじゃないといえば、そっか……」


 言葉を選ぶように、少し口を閉じて、また開く。


「……聞こうとしたわけじゃない、って言ったら言い訳だけど、なんか、勝手に知っててごめん」


 勝手に知ってごめん、なんて謝られても、別にそんなことはどうでもよかった。どうでもいいって言ったら言い方が悪いけれど……あまり、関心を持つことではなかった。


「……どう思った?」

「どうって」

「なんかあるじゃん。色々。同情するとかドン引きするとか、色々」

「……別にどっちもねーよ」


 挙げた反応が極端すぎただろうか、それこそ反応に困った顔をする。


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