第四幕、御三家の幕引
「つか、聞いたときはそれどころじゃなかったし……いや、それどころなんて言ったらなんか語弊(ごへい)があるんだけど、なんていうか、別にお前への態度とか感情が変わるようなことじゃねーし……」


 今度は私が反応に困る番だ。桐椰くんのことだから、そんなことを至極当然のように言えるのは分かるけど、いざ言われると反って居心地が悪い。


「……そう」

「……でも、他人に知られて気分がいいもんじゃねーし。お前が知らないところで勝手に知ってるのは悪かったなって、思ってたんだけど、わざわざ報告すんのも違うなってなって、言ってなかった」


 ごめん、とまた言われて、更に困ってしまった。

 あれ、私、何を知りたかったんだっけ。何がしたかったんだっけ。何を言いたかったんだっけ。桐椰くんに何かを期待してたのだろうか。いっそドン引きしてほしいくらい思ってたのかな。逆に、同情する桐椰くんに逆切れくらいしたかったのかな。

 何も言葉にすることができず、再び沈黙が落ちた。

 そもそも、桐椰くんってどこまで知ったんだろう。養子ってことだけ? 優実から聞いたなら、お父さんの不倫相手がお母さんで、私がその子ってことまで聞いたのかな。優実はそんなのどうでもいいっていつも言ってたけど、話しちゃったのかな。じゃあ孝実との関係までは知らないのかな。私の旧姓は知ってるのかな。幕張匠だってことまでバレてるのかな。そういえば、鹿島くんが言ってた、松隆くんのお父さんと私のお父さんとの間にあった話は、桐椰くんは知ってるのかな――。

 何を喋ればぼろを出さずに済むのか、そもそももう全て出し切った後なのか、分からずにずっと黙っていると、沈黙に対する互いの気まずさが沸点に達しようとする。そして、弾ける直前、桐椰くんが立ち上がる音で沈黙が破られた。


「んじゃ、用事済んだし、帰る」

「え、用事って……」

「お前のご飯作りに来ただけだから」

「出張家政婦サービス……」

「言っとくけど高ぇぞ」

「あ、材料費」

「別にいい、うちから持ってきたものもあるから」


 桐椰くんが本当に帰る準備をし始めるので、私はおろおろとテーブルの前で間抜けに慌てふためく。でも洗い物まで完璧にこなしてしまった桐椰くんの支度は早い。


「じゃあな。よいお年を」

「え、いや、うん、よいお年をなんだけどね、桐椰くん」

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