第四幕、御三家の幕引
 桐椰くんの電話は初詣のお誘いだった。ただ、お昼ご飯を食べることになったので、とりあえずはカフェで待ち合わせだ。約束の十分前には着くように行ったのに、お店の前に行くともう桐椰くんは待っていた。


「おはよー、桐椰くん」


 口を開くと、冷たい空気が肺の中に滑り込んできた。冷たいだけじゃなくて澄んでいるので、もしかしたら雪が降るのかもしれない。


「おはよ、じゃねーよ、今からお昼食べるってのに」


 マフラーから出ている鼻が赤い。色が白いので余計に目立つ。デジャヴだなーと首を傾げていたけれど、年末に家に来てくれたときも鼻が赤かったせいだとすぐに思い出した。


「お昼の挨拶って困るじゃん。こんにちはだと余所余所しいし」

「分かるけど。あけましておめでと」

「おめでとー。今年も私の保護者よろしくね」

「去年も今年も保護者じゃねーよ」

「お年玉はー?」

「なんでだよ、猶更意味分かんねーよ」


 手を出すと、代わりにピン、と額を弾かれた。すぐにお店に入ろうとするので「え、ちょっとちょっと」と引き留めた。


「松隆くんとツッキーは待たなくていいの?」

「アイツらなら来ねーぞ」

「え?」


 てっきり御三家と初詣だとばかり思っていたのに、と困惑してみせれば「総は家の集まりあるし、駿哉はお正月は家族で過ごす派」と返された。納得しかない理由だ。ま、桐椰くんと二人なんて今更どうとも思わないからいいんですけどね!

 神社から少し離れているせいか、店内は空いていた。二人で向かい合って座ってメニューを眺めていてふと顔を上げると、桐椰くんの姿勢か仕草みたいなものに既視感があった。そういえば、大阪で彼方と会ったときも似たような感じで座った。それとダブってしまうのが兄弟だからと思うと、なんだかちょっとおかしくて笑ってしまった。桐椰くんは一瞬怪訝な顔をしたけど、すぐにメニューに視線を戻した。


「そういえば、桐椰くんは家族でお正月過ごさなくていいの?」


 揃ってグラタンセットを頼んだ後、家を出る前から抱いていた疑問を口にした。いかんせん、桐椰家は母親の実家に帰っていると彼方には言われたのだ。母親の仕事の都合で急に決まったらしくて、だから会うのは年明けに持ち越そう、と。私も病み上がりだったので丁度良かったといえばそうなのだけど。


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