第四幕、御三家の幕引
「松隆くんって何が好きなんだっけ」

「本。あ、そうだ、去年はちょっといいブックカバーあげたな。前持ってたヤツにコーヒー零したとか言ってたから」


 アイディアを貰おうとしたのに、記憶喚起にしか役立たなかった。確かに、松隆くんは第六西でもごろごろしながら本を読んでるイメージはある。


「他に好きなものは?」

「お兄ちゃん」

「松隆くんのお兄ちゃんの等身大ぬいぐるみとか作ってあげたら?」

「うん、手間かかるけど嫌がらせにはいいと思うんだよな。あっても困るけど下手に捨てられない的な意味で」


 その通りだ。本当にただの嫌がらせだ。


「あとはー……いつもコーヒー飲んでるよね」

「コーヒーメーカーは第六西にあるあれで十分だし、アイツは家にも自分の持ってる」

「マグカップ」

「第六西にあるな」

「うー、男の人のプレゼントって難しいね。女の子ならアクセサリーあげとけばいいみたいなとこあるけど」

「お前、アクセサリーつけんの?」

「私はつけないけど、優実はつけてるよ」

「それは知らねーけど」


 いや、知らないことはないでしょうよ。そう言いたかったけど、あまりにバッサリと切られてしまったので何も言えなかった。というか、そろそろ優実との関係を焚き付けると怒られそうだな……。


「あ、じゃあコーヒーとお菓子みたいなののセットにしようよ。コーヒー屋さんに行けば売ってそうじゃん」

「あー……まぁ、それでもいいか……」


 慌てて松隆くんのプレゼントに話題を戻したけれど、桐椰くんは生返事だ。やっぱり優実の名前を出したのは問題だったな! そのわりには私が寝込んでたことといい、連絡は取り合ってるみたいだけど。


「コーヒー屋さん探して行ってみようよ。ね!」

「そうだな……今日はまだどこも開いてないだろうから、来週末だな。再来週は模試だし」


 スマホを見ながら「ゲッ、記述じゃん」と桐椰くんは顔をしかめた。来週は三年生がセンター試験を受けるし、いよいよ受験生って感じだ。


「どーせ駿哉がいい点数かっぱらって教師に褒められてだろうなぁ」

「月影くんって模試の点数どんな感じなの?」

「クソいい。つかアイツ、単純な処理スペックが高すぎる。英語と数学解くのがクッソ早い。有り得ねぇくらいの速さで東大の過去英語解くからな」


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