第四幕、御三家の幕引
 桐椰くんに無言で一枚渡して、残りを後ろに回しながら思わず硬直した。同じ部屋の女子は八橋さんだったからだ。

 「桜坂」から「八橋」の間にいる女子はみんな台湾か北海道、だと……。確かに、御三家関係で私を嫌いな女子と一緒になるよりよっぽどいい。なんなら八橋さんは文化祭準備のときに絆創膏をくれたとっても心優しい人なので、同じ部屋になるのはクラスメイトの中では唯一無難といっても過言じゃない。

 ──というのは、つい最近までの話だ。問題なのは、八橋さんについて知ってる数少ない情報──「鹿島くんが好き」。

 体育祭の競技がどこまで本気なのかは分からない。が、あの大人しい性格の八橋さんが敢えて鹿島くんを“気になる異性”に選んだとすれば限りなく本気なんじゃないかとしか思えない。

 思わず額を押さえた。色々とタイミングの悪い修学旅行だ……。鹿島くんってそこまで計算してたのかな……。そうだとしたらさすがに完敗……。


「ねー、亜季は関西詳しいの?」

「ううん、全然……ふーちゃんは?」

「あたしもぜんぜーん。深古都も関西には全然縁がないから分からないって言われちゃった」


 なぜそこで深古都さんが出てくるのかは分からなかったけど、多分ふーちゃんの全般的なお守りをしてるんだろうな。


「というわけでー、本日は海遊館はいかがですか? 深古都がちょっと調べてくれたよー」


 じゃーん、という効果音付きでふーちゃんが見せてくれたのは海遊館のホームページだった。場所を提案してくれるのは嬉しいけど、御三家ともろかぶりですよねそれ。深古都さんが提案したというのなら何の意図もないだろうけれど、そのせいで余計に自分の運の悪さを呪った。


「……深古都さんによろしくお伝えください……」

「あ、お土産は八ツ橋希望されたから京都は絶対行こうねー」

「八ツ橋なら大阪駅で売ってるからそれでいいだろ」


 そこでまさかの桐椰くんが口を挟んできた。私が一瞬息を止める前で、ふーちゃんが「そうなのー?」と不思議そうに首を傾げた。


「大阪駅なのに」

「中継地点だからだろ。さすがにちりめん細工とかは見かけねーけど、食べ物系の土産は関西圏内ならある程度……それこそ八ツ橋なら売ってた気がする」

「ほほーう。それなら賞味期限も気にしなくてよさそうだしいいねー。ていうか桐椰くん、大阪詳しいのー?」
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