第四幕、御三家の幕引
 うだうだ文句を垂れながら参拝の列に並ぶこと三十分、漸く初詣ることができた。並んだ時間のわりにはお参りの時間が短かったし、御神籤も修学旅行で引いたばかりなので引く気にもならず。どちらかというと桐椰くんとお昼ご飯を食べるだけになってしまった。早々に神社を出て駅まで歩きながら、得したような損したような複雑な気持ちになる。


「初詣なんてこんなもんだよねー」

「まぁ、年明けたらとりあえずするかってもんではあるよな」


 だからってぞんざいな参り方すんなよ、と言われてしまった。拝み終えるタイミングを見計らって薄目開けてたことバレてたのかな。


「はーあ、今日の予定終わっちゃった。桐椰くんはおうち帰るの?」

「あぁ、明日の模試の勉強する。だからもう構ってやんねぇぞ」

「誰も構ってほしいなんて言ってないんだけどなぁーそんなに私に構いたかったのかなぁあいたたた」

「だったら『帰るの?』なんて聞き方すんじゃねーよ」


 新年初抓られは早々に終了してしまった。なんなら折角会ったというのにもう帰るというのだから、存外桐椰くんも冷たい。少し前を歩く桐椰くんの足元をじっと見つめる。桐椰くんは、どこまで私に優しくしてくれて、どこから綺麗に離れるんだろう。

 そんなことを考えながら話していると、喉の奥から言葉が出かかってうずうずした。言いたくて言いたくて堪らなくなった。


「ねー桐椰くん、もう帰るんだよね?」

「帰るけどなんだよ。ちょっとくらいなら付き合ってやってもいいけど」

「この間聞き損ねたからちゃんと聞いときたかったんだけど、桐椰くんは何で優実から私が養子だなんて聞いたの?」


 だから、もう桐椰くんと別れるんだというところまでやってきて、口を開いてしまった。今まさに駅構内に入ろうとしていた桐椰くんの足がぴたりと止まる。重たそうな見た目のブーツだからなんてことは関係なく、その足が妙に重々しく私のほうへ向き直ったように見えた。マフラーに半分隠した表情だって、強張っているように見えた。


「……何でって」

「話の流れとかなんとか言ってたじゃん。あれ、違うっけ、流れっていうには急とか言ったっけ」

「……流れだよ」

「じゃあ、どんな流れで?」


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